研究会・出張報告(2007年度)

   研究会

日程:2007年7月26日(木)~7月27日(金)
場所:上智軽井沢セミナーハウス

報告②:
○茂木明石(上智大学)Frederick De Jong, "Opposition to Sufism in Twentieth-Century Egypt[1900-1970], " in F. de Jong & B. Radtke (eds.), Islamic Mysticism Contested: Thirteen Centuries of Controversies and Polemics, Leiden: Brill, 1999. pp. 310-323.
 本論文は、19世紀後半から1970年までのエジプトにおけるスーフィズム批判を通史的に扱ったものである。ここでは、茂木氏の発表に従って本論文の内容を概略的に紹介し、その後で質疑応答およびディスカッションの内容をいくつか紹介する。本論文によれば、19世紀のエジプトでは、スーフィズムに対する批判は教義的側面ではなく、宗教実践における楽器の使用や危険な行為などの慣習的行為に向けられていた。19世紀後半に政府主導でスーフィー教団の行政面・組織面の改革が実施されたが、これらの改革は、スーフィー教団の指導者の利益を保護するものであったため、教団側からの抵抗はなかった。しかし20世紀の初頭からムハンマド・ウマルやムハンマド・アブドゥ、ムハンマド・ハッターブ・アル=スブキーが本格的にスーフィー教団批判を始めることとなった。20世紀半ばからはまた新たな局面が生じ、政府はムスリム同胞団に対抗するために、スーフィー教団を政治的に利用し始めることとなった。そしてその後も、スーフィー教団は政治的に利用され続けることとなる。
 発表後の質疑応答・ディスカッションでは、本論文の内容そのものよりも、エジプトのスーフィー教団の現状に関する議論が行われた。例えば、参加者から、ムスリム同胞団とスーフィー教団が「イスラーム復興」に関して協力関係にある可能性はないのかという意見が出た。しかし、基本的に両組織が敵対関係にあるエジプトの現状からは、民衆レベルで両組織にコミットしている人々がいる事例があったとしても、その事例をもって両組織に協力関係があると見なすのには無理があるとの反論がなされた。また、両組織の間に協力関係があるとする仮説を証明するためには、フィールド調査の方法論を含めて、困難な問題が多くあることが指摘された。
 (新井一寛・大阪市立大学大学院文学研究科都市文化研究センター)