研究会・出張報告(2007年度)

   研究会

日時:2007年7月14日(土)13時30分~17時30分
場所:上智大学2号館630a 会議室
報告:
1. 三代川寛子氏(上智大学大学院博士後期課程)
 「現代エジプトにおけるムスリム同胞団とコプト」
 コメンテーター・横田貴之氏(日本国際問題研究所)
2. 見市建氏(岩手県立大学)
 「比較のなかのジャマーア・イスラミヤ:武装闘争派イデオロギー形成の背景」
 コメンテーター・小林寧子氏(南山大学)

報告①:
○三代川寛子(上智大学)「現代エジプトにおけるムスリム同胞団とコプト」

 三代川氏の発表では、2005年のエジプト人民議会選挙で躍進したムスリム同胞団と、現代エジプト社会におけるマイノリティであるコプト教徒が取りあげられ、エジプト社会において両勢力がどのような相互関係にあり協調関係は成立するのかといった問題が議論された。
 発表では、ナショナリズム、イスラームなど、現代エジプト社会の諸イデオロギーのなかでのコプト教徒の位置づけが確認されたあと、コプトに対するムスリム同胞団側からの視点として、同団体の機関紙『ダアワ』に掲載されたファトワーの分析がこころみられた。1980年代前後の同胞団の旧世代によるファトワーの分析では、コプト教会の建築に対する規制、埋葬される墓地に関する問題などが見られるものの、従来のイスラームの解釈と比べて、際立った違いがないのではないかという発表者の見解が述べられた。一方、コプト側からのムスリム同胞団に対する態度に関しては、分析対象になりうる資料の数の少なさが指摘され、新聞記事に掲載された議論が紹介されるにとどまった。
 しかし、エジプト社会の現実の局面においては、コプト教徒に対する差別が表面化することがある。たとえば、教会の建築・改宗に関する規制や、改宗問題、就職問題などである。さらに、1981年6月カイロで起こったザーウィヤ・ハムラー事件、90年代半ばに起こったイスラーム主義者によるコプト教徒脅迫事件、2005年アレキサンドリアの演劇事件など、ムスリムとコプトが実際に対立する事件がいくつかエジプト社会で生じている。
 これらの差別問題・宗派対立を前にして、ムスリム同胞団とって最優先課題は国内のマイノリティ問題ではなく民主化であり、一方コプトにとってイスラームを標榜する団体であるムスリム同胞団を積極的に信用する理由はなく他のイスラーム諸勢力と大差がない。以上が、発表者のまとめたムスリム同胞団とコプト両勢力の相互関係の構図である。
 質疑応答では、ムスリム同胞団側からの視点の補足として、94年のムバーラク政権によるムスリム同胞団への弾圧が同胞団のコプト・女性問題に対する転換点になったことや、エジプト人社会学者サイード・アッディーン・イブラーヒームによる市民社会論がマイノリティに対する論争を生じさせたことなどが指摘された。
 (若桑遼・上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科博士前期課程)