研究会・出張報告(2007年度)

   出張報告

期間:2007年7月3日~17日(15日間)
国名:レバノン、シリア
出張者:髙岡豊(中東調査会研究員)

概要:
 2007年7月に、イスラーム地域研究上智大学拠点の研究事業の一環としてレバノンとシリアに出張した。この出張は、以下の目標を持って行った。

 ①ヒズブッラーをはじめとする、レバノンのイスラーム運動の活動を、実践レベルで解明するための基盤作りを行なう。
 ②ヒズブッラーをはじめとする、レバノンのイスラーム運動とその思想的潮流に関する研究を行なうための基礎的な資料・文献を収集する。
 ③上智大学と提携関係にあるサン・ジョセフ大学(ベイルート)を訪問し、今後の協力体制構築のための意見交換を行う。

 以上の目的を達成するため、出張者は「サン・ジョセフ大学」、「マカーシド・イスラーム慈善協会」、「研究と史料編纂のための諮問センター」等の機関や、レバノン大学のマスウード・ダーヒル教授らの識者を往訪した。この結果、レバノンの各宗派間で行われている対話の実態や、サン・ジョセフ大学での各国からの学生・研究者の受け入れ態勢、一般大衆向けに教育や建設などの福祉・経済活動を行なっているヒズブッラー傘下団体についての知見を得ることができた。また、ヒズブッラーの思想や活動を解明するために必要と思われる資料に収集にも成功した。

 一方、今般の出張は、レバノンにおける政治的対立が高まる中、イスラエルによるレバノン攻撃(2006年7月~9月)の開戦1周年と同時期という機微な状況の中で実施された。このため、今般の出張の目標の一つであった、ヒズブッラー傘下団体の活動の実地訪問は実現することができなかった。何故なら、レバノン内外の政治的緊張の高まりが原因で、ヒズブッラーが報道機関・研究機関をはじめとする来訪者に対する管理を強化し、傘下の福祉団体に対する訪問希望に対しても党の対外関係部門で一括審査を行なうようになったからである。出張実施期間中は、「訪問希望者自身がヒズブッラーの対外関係部門を訪問し、訪問希望申請書を提出すること」、「訪問希望者の所属機関からの身元を証明する書類を提出すること」が要求され、要望の可否の判断に最低10日を必要とする状態だった。このため、一般大衆レベルでの活動を実際に見聞するという、ヒズブッラーについての研究計画を実現するには、レバノン国内における提携機関・専門家の拡充と、ヒズブッラーとその関連団体の実地調査を希望する者にどのような支援を行うことができるか、という課題が浮き彫りとなった。とはいえ、今般の出張を通じ、サン・ジョセフ大学やヒズブッラー傘下の研究機関との関係を構築することはできた。今後もこれらの機関との関係を強化し、課題を克服する足がかりとしたい。(髙岡豊)