研究会・出張報告(2007年度)

   研究会

日時:6月2日(土) 午後4時45分~6時30分
会場:上智大学2号館630a号室
参加者:12名
報告:北澤義之氏(京都産業大学)
   「ヨルダンから見たハマース運動―調査報告をかねて」

○北澤義之(京都産業大学)「ヨルダンから見たハマース運動―調査報告をかねて―」
 北澤氏は、ヨルダンでの調査をふまえて、パレスチナ・ヨルダンにおけるイスラーム政治運動の歴史的関連性を概説し、ヨルダンの対イスラーム政策の変化と近年のハマースの動向について報告した。
 まず、氏はハマース研究の前提として、その背景としての近代化やナショナリズムの変遷、グローバル化の進展など、大きな歴史的流れを意識しつつ研究すべきであることを強調した。ハマースに限らずイスラーム政治運動を研究するときには、研究対象のみにとらわれるのではなく、広い視野を持って研究に取り組むことが重要であると改めて認識させられた。
 筆者が関心を持ったのは、ヨルダンの対イスラーム政策の大きな変化である。イスラーム政治運動を支持する立場であったヨルダンは、1994年のイスラエルとの国交樹立、国王の交代を経て、イスラーム政治運動に対し弾圧策をとるようになったという。参加者からも、このような急激な政策の転換は国王の支持基盤を揺るがすのではないかといった疑問が呈された。
 また、氏は「ハマースは10年前のハマースではない・・」というハマース在外政治指導者ハリド・ミシュアルのインタビューを引用し、ハマースの中にもイスラエルとの対話を拒まないという妥協の姿勢が存在することを指摘した。こういった現実的な路線は在地のハマースにも見られることなのかと、参加者の関心を惹きつけていた。
 最後に、氏はプロジェクターを使用して、ヨルダンでの調査の様子を説明した。ヨルダンから帰国されたばかりの氏の臨場感あふれる解説は、氏のヨルダンでの調査が大変貴重で意義深いものであったことを感じさせた。
 民主化という流れの中で、「パレスチナはイスラームのワクフである」という確固とした理念と、妥協の意志が無いわけではないという現実的な側面を持ち合わせるハマースの研究は、民主化とイスラーム運動の関連性を理解するうえで意義のある研究である。
 (菊池恵理子・上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科博士前期課程)