研究会・出張報告(2007年度)
研究会- グループ2国際シンポジウム(2007年5月12日~13日、19日)
Symposium on Bangsa and Umma: A Comparative Study of People-Grouping Concepts in the Islamic Areas of Southeast Asia.(国際シンポジウム「バンサとウンマ:東南アジア・イスラーム地域における人間集団分類概念の比較研究」)
※東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(ILCAA)共同研究「マレー世界の地方文化」、京都大学地域研究統合情報センター共同研究会「イスラム教圏東南アジアにおける社会秩序の構築と変容」、ジャウィ文書研究会(事務局:東京外国語大学外国語学部青山亨研究室)との共催。
日時:2007年5月12日(土)~13日(日)、19日(土)
場所:上智大学、東京外国語大学、京都大学
プログラム:
第1部: 2007年5月12日(土)13:00-19:00 上智大学
司会:新井和広(東京外国語大学ILCAA)
開会の辞:川島緑(上智大学)
<第1セッション>
Aspects of Islam in Southeast Asia from the viewpoint of the Jawi document.
・Michael LAFFAN (Princeton University):“Notes on Jawi Printing and Tariqa Sufism between Mecca and Singapore”
・服部美奈(名古屋大学):“Religious Jawi Documents in Minangkabau”
・菅原由美(天理大学):“Kitab Jawa: Islamic Textbooks Written in Javanese (Pegon)”
<第2セッション>
Aspects of Bangsa and Umma in the Islamic Areas of Southeast Asia.
・國谷徹(上智大学アジア文化研究所共同研究員):“Umma in Colonial Context: Pilgrim-Statistics in the Netherlands-Indies”
・篠崎香織(ルクセンブルク欧亜大学):“Contesting Chineseness: Bangsa and Queues in the Straits Settlements, 1896-1911”
・西芳実(東京大学): Two Concepts of Acehnese in the Law on Governing Aceh, 2006: Peace Building through Multiplying Channels for Representation”
第2部:2007年5月13日(日)13:00-18:30 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
司会:青山亨(東京外国語大学)
開会の辞:山本博之(京都大学)
・Anthony MILNER (Australian National University and ILCAA, Tokyo University of Foreign Studies):“Localizing the ‘Bangsa Melayu’”
・西尾寛治(東洋文庫):“Bangsa and Politics: Melayu-Bugis Relations in Johor-Riau and Riau-Lingga”
・Michael LAFFAN:“What Can Collaborators Tell Us About the Idea of an Islamic Indies?”
・坪井祐司(東京外国語大学ILCAA共同研究員):“The Transformation of the Framework of Bangsa in British Malaya: The Malay Community in Selangor under the Colonial Administration”
・Ariffin Omar (Northern University of Malaysia):“Bangsa Melayu and the Concept of Umma in Malaysia”
第3部:2007年5月19日(土)13:00-18:15 京都大学
司会:石井正子(大阪大学)
開会の辞:Anthony MILNER
・Michael LAFFAN:“What Can Collaborators Tell Us About the Idea of an Islamic Indies?”
・山本博之:“Restructuring the Federalism of Bangsas: Development of National/Ethnic Concepts in Sabah, Malaysia”
・Ariffin Omar:“Bangsa and Umma: The Dilemma of Malay Muslims in Southern Thailand”
・川島緑:“Transformation of the Concepts of Homeland and People among the Philippine Muslims”
概要:
本シンポジウムの目的は、植民地化以前から独立後の時期を対象として、東南アジア・イスラーム地域の人びとが、外部の思想を取り入れつつ発展させてきた様々な人間集団の区分概念を検討し、彼らがどのように自分たちを世界の中に位置づけ、政治権力との関係をどのようにとらえ、いかなる政治共同体を構想していたかについて、様々な時代や地域の事例を明らかにし、それらを比較検討することであった。この分野で国際的に高い評価を得ている3人の外国人研究者を招くとともに、日本側からは若手研究者を含め、長期間対象地域の研究を行なってきた9人の研究者が報告を行なった。シンポジウムは3部構成で、合計3日間にわたって活発に議論が行なわれ、密度の濃い学術交流が行なわれた。第1部(上智大学)は、ジャウィ資料に関する3つの報告のあと、若手研究者が現在取り組んでいる研究テーマに関連させて、当該社会における人間集団の分類概念について3つの報告を行った。第2部(東京外国語大学ILCAA)は、今日のマレーシア半島部、インドネシアに相当する、マレー語圏中心地域を対象とする5つの報告が行われた。第3部(京都大学)は、マレー語圏の周辺地域に相当するマレーシア・サバ州、南部タイ、南部フィリピンに関する報告を中心として構成された。各報告の内容については、先述の本シンポジウムの記録集Proceedings of the Symposium on Bangsa and Ummaを参照されたい。また、各報告の要旨は、以下のウェブサイトで閲覧できる。
http://homepage3.nifty.com/tao/jawi-study/records/2007/records_2007.html
東南アジア研究の中でも、民族意識の形成、民族間関係、植民地行政、ナショナリズムは、研究が盛んで豊富な蓄積がある分野である。本シンポジウムはこれらの研究蓄積を踏まえ、その中から生まれた問題意識にもとづき、多様な思想や観念が共存・交錯する東南アジア的状況の中の一つの要素としてイスラームをとらえ、その中でイスラームが持つ意味を探る試みといえる。このシンポジウムの成果を踏まえ、東南アジア各地の人間集団の分類概念や、政治共同体の観念について個別事例の実証研究をさらに行なうとともに、比較研究を進め、それを通じて東南アジアの歴史的、社会的、政治的文脈におけるイスラームの展開の特徴を明らかにし、東南アジアにおいてイスラームが持つ意味を探求していきたいと考えている。(川島緑)