研究会・出張報告(2006年度)

   出張報告

期間:2007年3月14日~3月28日(15日間)
国名:ヨルダン
出張者:北澤義之(京都産業大学外国語学部教授)

概要:
 主な目的
 今回は、ヨルダンにおける有識者(学者、ジャーナリスト、政治家・活動家)との意見交換により、ヨルダンとパレスチナにおける中心的イスラーム組織の現状に関する基本的情報を整理し、人的ネットワークを構築するとともに、基本資料の収集に当たることを主な目的とした。
 面会した主な識者
 (1)イスラーム政治運動活動家
 ヨルダン・ムスリム同胞団副総監ジャミール・アブー・バクル、イスラーム行動戦線シューラー議会議長ハムザ・マンスール、イスラーム行動戦線事務局長ズケイ・バニー・アルシード、ヨルダンエンジニア協会議長(ムスリム同胞団)ワエル・アクラム・サカ等
 (2)学者
 ヨルダン大学政治学科長サアド・アブー・ダイエ教授、ヨルダン大学戦略問題研究所ムスタファ・ハマールネ教授、同研究所マハジュブ・ズウェイディ教授、バルカ科学技術大学シャリーア学部ハムディー・ムラド教授、地中海国際問題センター・ムスタファ・エイエダート教授等
 (3)ジャーナリスト
 ムハンマド・アブー・ルマーン(アルガド紙)、サミーフ・アルマアイタ(アルガド紙)、ガーズィ・アルサアディ(独立)、ファハド・ヘイターン(アルヤウム・アルアラビー紙)、ナビール・シャリーフ(ドストール紙)、フセイン・アブー・ルマーン(独立)等
 主な成果
 以上の識者とのインタビューから、イスラーム活動家の見解としては、ほぼ集約的に、腐敗防止や民主化推進で実効的に活動しているのは、イスラーム運動のみであるため大衆のイスラーム運動への支持は更に拡大していること、歴史的に維持されてきた政府との良好な関係は94年のヨルダンのイスラエル承認以来、対立に転じており、近年は特に厳しくなっている。ただし、議会における左派を含めた野党の協調行動を取りまとめることは、同運動の戦略の範囲内に入っていることを確認できた。また、一部で関係断絶が伝えられるハマースとヨルダンのムスリム同胞団の関係は依然協力関係にあるという認識は共通していた。
 これに対し、学者・ジャーナリストの見解は多様であった。イスラーム系組織への支持が、減少しているとの意見は少なかったが、せいぜい横ばいであるという意見と拡大しているという意見が分かれた。政府との関係は、悪化していると見る意見が多い一方、結果的にヨルダンのイスラーム運動は、政府と妥協する道を選ぶであろうという考えと、対立がこのまま拡大していくとの意見、或いは政府との対立はあっても国王との対立は避けるであろうとの指摘もあった。識者の意見でほぼ共通して見られた指摘として、ヨルダンやパレスチナのイスラーム運動は民族解放の観点からパレスチナ問題と交錯して展開されており、ヨルダンのイスラーム運動は近年のパレスチナとヨルダンとの関係に大きな影響を受けているという点である。
 資料的には、ハマースに関する出版物はヨルダンでは限定されているものの、ヨルダン大学戦略問題研究所はヨルダンや西岸・ガザの大衆とイスラーム運動に関する独自調査を継続していることを確認し、またダール・アルジャリール出版などの独立系研究所が西岸やガザのイスラーム運動資料のファイリングを行っており、資料面での研究協力が可能との言質を得る事ができたのは収穫であった。(北澤義之)