研究会・出張報告(2006年度)

   研究会

日時:2007年2月24日(土)12:00~18:00
場所:上智大学11-305室
参加者:32名

報告②:
○清水学(上智大学)「金融資本の現段階的特徴とイスラーム運動との接点」
 清水氏は、昨今注目を集めているイスラーム銀行、イスラーム金融、イスラーム経済等について、世界金融システムの変容と関連づける巨視的な視座からの発表を行った。
 まず清水氏は、上述したイスラーム経済等は現在の金融システムの中で市民権を獲得しつつあるが、現実には金利(利子)を重視する非イスラーム経済システムが主流である以上、イスラーム経済もそれらとのインターフェースを持たざるを得ないとし、その実例として、産油国のオイルマネー等が世界の主要国の金融市場や投資ファンドを通じて資産を運用してきたことなど、非イスラーム的な経済システムに運用先を見出してきた事情を挙げる。
 しかし、清水氏によれば、経済におけるイスラーム的理念と非イスラーム的理念の相互関係は必ずしも調和的ではなく、例えば1997年にはじまるアジア通貨危機は、非イスラーム的経済システムがイスラーム的経済システムを危機に陥れた。他方、イスラーム経済の成長時期は、現代資本主義が新段階に入った1970年代と時期を同じくしており、清水氏はこれを偶然と見ることはできないのではないか、と説く。
 さらに、ここ数十年のマクロ経済、特に金融システムの変容について丹念な説明がなされた。1971年以降の世界金融システムを支える制度インフラは大きく変質し、これに伴い米国におけるケインズ派の後退と新古典派・マネタリズム台頭に見られるイデオロギー的構造転換が生じた。一連の変化の結果、昨今の世界金融システムは、米銀ネットワークの世界的拡大、投機対象としてのデリバティブの隆盛、ヘッジファンドの増大、大型M&Aの展開によって特徴づけられるようになり、中でもヘッジファンドの存在が大きくなった。
 清水氏によれば、上記の傾向をイスラーム世界との接点から見ると、アジア通貨危機におけるイスラーム世界の政治経済危機のようにヘッジファンドの役割について警戒心が強いこと、デリバティブがイスラーム世界で受容されるのかについて見解が統一されていないこと、米主導の経済的グローバリズムへの異議申し立てとしてのイスラーム金融という見方など、様々な論点が存在するという。
 質疑応答では、イスラーム金融・銀行システムとグローバリゼーションの関係、イスラーム経済の倫理的枠組などに関する質問が多く寄せられ、参加者の関心の高さがうかがわれた。
 (吉川卓郎・在カタル日本大使館専門調査員)