研究会・出張報告(2006年度)
研究会- グループ1第3回研究会(2007年2月24日上智大学11-305室)
日時:2007年2月24日(土)12:00~18:00
場所:上智大学11-305室
参加者:32名
報告①:
○横田貴之(日本国際問題研究所)「ムスリム同胞団研究の現状と課題」
横田氏からは、エジプトのムスリム同胞団に関し、主に(1)同胞団運動の概略、(2)同胞団の思想、(3)同胞団研究の現状、(4)今後の研究上の課題、についての報告があった。
まず(1)の同胞団運動の概略について、ムスリム同胞団の創設から現在までの活動が、創設・発展期-停滞期-復活・再興期-ムバーラク政権下の活動の、4つの時期区分から説明された。特に、近年ではエジプト人民議会で躍進する同胞団の動向について、同国における民主化の問題や多様な政治運動と関連づけた詳細な報告が行われた。
続いて、(2)同胞団の思想に関し、同胞団創設者ハサン・バンナーと、同胞団停滞期の著名イデオローグであったサイイド・クトゥブの思想についての説明が行われた。特に後者については、イスラーム急進派に受容された「クトゥブ主義」とクトゥブ自身の思想に乖離があった点など、詳細な説明があった。さらに同胞団から派生した政党「ワサト党(政府非公認)」の唱えるイスラーム民主主義の理念や、同党の最近の動向について、興味深い考察が行われた。
(3)の同胞団研究の現状については、横田氏によれば、同胞団運動の変遷に先行研究が連動した結果、研究の動向は第1期(1960年代まで)、第2期(1970-90年台)、第3期(1990年代以降)に大別される。最近の傾向としては、エジプト政治と関連付けた研究や、特に我が国では同胞団の思想に関する研究が増加する傾向にあるという。
最後に、今後の同胞団研究の課題が提示された。横田氏は、1970年代の同胞団復活以降の研究が量的に不足しており、特に現地調査に基づく実態把握の必要性が高く、また初期の運動についても、同胞団機関紙や出版物から再検討する必要があると説いた。さらに、社会運動としての同胞団研究、様々な同胞団関係者の思想分析、各国の同胞団・同胞団系運動との比較研究等、様々な研究の可能性が提示された。
参加者からの質疑応答においては、同胞団の抱える合法性の問題と最新の動向、イスラーム国家に関する同胞団の視座、同胞団における他の思想(スーフィー、マウドゥーディーなど)の影響力等について、活発な議論が展開された。
(吉川卓郎・在カタル日本大使館専門調査員)