研究会・出張報告(2006年度)

   研究会

日時:2007年1月6日(土)13:00~17:00
場所:上智大学2-630a室
参加者:20名

報告①:
○森本一夫(東京大学)「サイイド/シャリーフ―基礎的事実とアプローチ」
 2007年1月6日、NIHUイスラーム地域研究SIASグループ3の第1回研究会が行われ、森本一夫氏による預言者一族研究に関する発表があった。森本氏は、本研究の3つの方向性として、系譜学、「美徳物」、サイイド・シャリーフ論があることを示した上で、「サイイド/シャリーフ論について押さえておきたい要素」、および「アプローチの道筋の提案」について述べた。前者については、レジュメの1章「サイイド/シャリーフとは誰か」で、後者については3章の「サイイド/シャリーフへのアプローチ」でそれぞれ説明がなされた。
 前者について、サイイド/シャリーフとは、第1に、クルアーンの33章33節と42章23節中における言葉によって規定される権利を有するものたちである。また、それに該当するものとして、クライシュ族やアブドマナーフ族、ハーシム家(アッバース家+ターリブ家)、ターリブ家、アリー家、ファーティマ家などが挙げられた。第2に、サイイド、シャリーフ、ミール、ハビーブ、トラなど、慣習的な尊称によって呼ばれる人々である。しかし、森本氏はファーティマ家を中心とするアリー家、ターリブ家くらいで考えるのがまずは適当であるとした。第3に、男系・女系についてである。男系での血統の継承が基本原則である。しかし、森本氏はファーティマの存在、系譜とシャラフ(シャリーフとしての地位)の相関の微妙さ、女系を認めた社会の広範な存在などの問題があると指摘した。
 後者について、4つのアプローチが提起された。第1に、歴史の中のサイイド・シャリーフである。ここでは中世モロッコにおける諸王朝下でCharifismeが持った意義などについて、他地域との比較を通じた研究を行うことが挙げられた。第2に、同時代に生きるサイイド/シャリーフである。ここでは、エジプトのナキーブ事務所(タリーカとの関わり)、モロッコのシャリーフ連盟、ナキーブ連盟などの事例が挙げられた。第3に、言説の中のサイイド/シャリーフである。ここでは「美徳物」を中心とする一連の言説の展開、言説の広がり具合の検討(「中世的イスラーム」「近現代的イスラーム」(東長)の相違にも注意して)が挙げられた。第4に、解釈の対象としてのサイイド/シャリーフである。ここでは「聖遺物」としてのサイイド/シャリーフや「内なる異人」としてのサイイド/シャリーフが挙げられた。
 また、この他にも、レジュメの2章「いくつかの逸話」において、預言者一族にまつわる逸話が紹介された。それには、スンナ派の親サイイド/シャリーフ文献(⇒美徳物)に見られる逸話(粉屋アブー・ハサンの逸話)、聖なる先祖による特別な保護(夢を通じて権限、それを喚起するサイイド/シャリーフの祈願)などがあった。
 質疑応答では、大塚和夫氏が社会集団論的観点から集団概念の精緻化の必要性や男系・女系の分析上の区別、メンバーシップの問題などについて述べた。
 (新井一寛・大阪市立大学大学院文学研究科都市文化研究センター研究員)