研究会・出張報告(2006年度)
研究会- グループ1第1回研究会(2006年12月16日京都産業大学12号館12521室)
日時:2006年12月16日(土)12:30~17:30
場所:京都産業大学12号館12521室
参加者:15名
報告⑥:
○Zoubir Arous(ズバイル・アルース)(アルジェ大学)「アルジェリアのイスラーム主義運動―社会運動から見たFIS」
本発表はアルジェリアにおけるイスラーム運動(Islamic movement)について、社会史の視点からの分析を提起するものであった。
まず前半部では、独立後のFLN政権による弾圧や政策変更に対応してイスラーム運動が発展し、1980年代末のFISの躍進と1992年の軍部クーデター以降の組織の分裂、内戦状態を経て現在に至る過程について解説された。そして、現在は5つのイスラーム主義政党が議会を通じて政治参加していることが紹介された。
後半部では、FISがさまざまなイデオロギー・グループを包含する組織集合体であったことに関連し、FISおよび分裂後の各政党や運動組織のイデオロギーや内部構造について述べられた。その中で、全ての組織がイスラーム国家樹立を主張しているにも拘らず、各々の描くイスラーム国家のイメージは異なっており、その実現への具体的なプロセスも明らかではないこと、組織化・組織運営の構想力がないため、アメリカのマネジメント手法を模倣したり、ユネスコからの指導を受けていることが明らかにされた。また、調査において、内部情報にアクセスできない組織の秘密性の壁をどう乗り越えるかという研究上の課題も指摘された。
最後に、コメント・質疑応答に応えるかたちで、アルース氏はフランス植民地支配制度の影響、とりわけフランス語話者とアラビア語話者で社会層が分断されており、後者が社会の下層部を占めていることに対する不満がイスラーム運動として現れていることを指摘され、アルジェリア社会の孕む諸問題に、使用言語の違いが大きく影響していることを強調された。また、人々のアラブ・アイデンティティーについては、1950-60年代のアラブ主義の影響というよりは、アルジェリアの歴史・伝統に根ざしたものであるとされた。
その他、同胞団に関しては、古くからのエジプトとの結びつきが強いこと、イデオロギーが現在のイスラーム主義諸政党に取り入れられていること、慈善・社会活動を通じた影響力を持つこと、教育のアラブ化を担いエリート養成を進めていること等が示された。スーフィーに関してはイスラーム運動を担うというよりは政権側によって体制内に取り込まれ、利用されていたこと、武装過激派に関しては、アフガニスタンの影響だけでなく、対仏独立闘争経験者がリーダーとして関っていること等も示された。
本発表は、アルジェリア特有の背景があるとはいえ、他地域と比較する際に有効な視点が示されており、今後の研究の枠組みを構想する上で、意義深いものであったといえる。
(石黒大岳・神戸大学大学院国際文化学研究科博士後期課程)