研究会・出張報告(2006年度)

   研究会

日時:2006年12月16日(土)12:30~17:30
場所:京都産業大学12号館12521室
参加者:15名

報告⑤:
○Zoubir Arous(ズバイル・アルース)(アルジェ大学)「アルジェリアのイスラーム主義運動―社会運動から見たFIS」
 Zoubir Arous氏の行った報告は「アルジェリアにおけるイスラーム運動:社会・歴史的アプローチ」と題したテーマで、まずアルジェリアで生じた運動の持つ性質を捉えるべく、1945年から80年代に関する社会・経済・政治・宗教的背景を述べ、アルジェリアという宗教的要素の強い社会で生じた、社会運動としてのイスラーム運動、政治運動としてのイスラーム運動という個別的な捉え方を排し、両者を連動した運動と位置づけることを強調された。その上で、現象としてのイスラーム運動の多様性を指摘され、個々の社会的動態や歴史的文脈といった総合的環境を視野に入れた分析の必要性を指摘した。しかし、その一方でこれらの運動に内包される多元性や概念の多様性、実社会からの需要との相違、そして政治的迫害による秘密主義的な性格が、研究者による社会学的研究を発展させる段階で阻害要因として働き得る可能生を帯び、現実に生じている、ということを報告した。
 本報告を受けコメンテータのコメントと討論は多岐にわたった。(1)イスラーム運動を研究するに当たり、当事者間での概念の不統一や政治的な関連、及びアイデンティティといった問題が非常にことを複雑化している、(2)国内要因に限らず国外の問題にも目を向けた場合に、アルジェリアの例で言えば、フランスによる文化的支配が運動の性質にどれほどの影響を与えうるのか、(3)メディアによる大衆への影響とアウトプットとしての大衆参加・社会構造の微妙な変化を、社会運動による影響として捉える必要性があるのではないか、(4)他国のイスラーム主義組織との関係性、(5)従来、イスラーム運動を個別的な事象として扱う傾向があり、グローバルイシューとの位置付けを大局的に捉えることが重要な課題ではないか、の以上5点に集約できると思う。出発点として位置づけられた今研究会だが、以上の議論は今後の研究展開に強い影響を与えうるものと考えられる。
 (相川洋介・上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科博士前期課程)