研究会・出張報告(2006年度)

   研究会

日時:2006年12月16日(土)12:30~17:30
場所:京都産業大学12号館12521室
参加者:15名

報告①:
○私市正年(上智大学)「イスラーム主義運動の現状―ポスト・イスラーム主議論との関係からの検討」
 上智大学アジア文化研究所イスラーム地域研究拠点(SIAS)グループ3における課題は、「イスラーム主義運動を、社会運動・民衆運動の視点から再検討すること」であるが、その実質的なスタートにあたる本研究会では、今後5年間の研究を推進するための「共通の問題枠組み」を議論することが目的であった。
 そこで本発表では、「イスラーム主義運動は現在岐路に差し掛かっている」という問題意識から出発して、「ポスト・イスラーム主義」を鍵概念とし、20世紀後半から21世紀にかけてのイスラーム主義運動の歴史と変遷が検討された。
 発表者はまず、1980年代初めからムスリム世界全体に広がっていったイスラーム主義運動の波において、1989年がその絶頂期であったと位置づける。この年には、パレスチナにおいてハマースがPLOに代わりヘゲモニーを掌握、アルジェリアでのFISの結党、アフガニスタンでのソ連軍に対するムジャーヒディーンの勝利、「悪魔の詩事件」など、世界の耳目を集める出来事が多く起きた。
 しかし発表者は、1990年代に入り、イスラーム主義運動は激しい暴力と組織の自己崩壊に向かっていった、と指摘する。アフガニスタン帰りのムジャーヒディーンが各紛争地帯で暴力的な闘争を開始し、暴力とテロリズムがイスラーム主義運動を支配するようになる。そして、最終的には2001年の9. 11テロに辿り着くのである。この過程において、イスラーム主義運動は徐々に大衆的な支持と基盤を喪失していき、政治的願望と現実とのギャップは埋め難いものとなっていった。発表者はこれを「イスラーム主義運動の挫折」とした。
 最後に発表者は、以上のような前提を踏まえ、21世紀のイスラーム主義はポスト・イスラーム主義なのか、という問題提起を行う。ポスト・イスラーム主義の2本柱としては、①ナショナル・レベルでのイスラーム主義運動の政治的合法化志向、②グローバル・レベルでのネオ・ファンダリズムのグローバル・ウンマ(想像の共同体)への志向、が挙げられた。
 コメンテーターやフロアからは、各々の専門の事例に引きつけたコメントがなされた。その中で繰り返し指摘されたのが、ポスト・イスラーム主義という概念の精緻化の必要性と個別事例にあてはめた実証作業の必要性である。これらの点は今後の研究を進めていく上での課題となろう。
 (溝渕正季・上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科博士前期課程)