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拠点強化事業「イスラームをめぐる諸宗教間の関係の歴史と現状」
公募研究「イスラーム社会の世俗化と世俗主義」(研究代表:粕谷元・日本大学准教授)
日本のイスラーム地域研究において、イスラーム主義およびイスラーム運動に関する研究は、先の「イスラーム地域研究」プロジェクト(1997-2002年)およびそれを継承した本研究プロジェクト(NIHUプログラム「イスラーム地域研究」)において主要な研究テーマの一つとなり、これまで多くの重要な研究成果を蓄積してきた。しかしながら、イスラーム主義およびイスラーム運動が、世俗主義および政治・社会の世俗化に対抗的に連動していることを考えるならば、イスラーム地域研究において、むしろ脇役的な研究対象になってしまっている感のある「世俗化と世俗主義」の問題に、改めて焦点を当てる必要がある。世俗化と世俗主義に関する研究は、イスラーム主義およびイスラーム運動に関する研究と相互補完的な関係にあり、上智大学拠点研究グループの「イスラーム近代と民衆のネットワーク」の研究にも少なからず益するであろう。そこに、本研究の意義と目的がある。イスラーム主義・イスラーム運動と世俗主義・世俗化との緊張的・動態的な相互関係を明らかにするためにも、世俗化と世俗主義そのものの研究は不可欠である。
研究活動を行うにあたって重視したいのは、多様なディシプリンの研究者による堅実な実証研究を行っていくという研究手法と、比較と連関の視点である。本研究課題のグループは、この手法と視点を持ちつつ、研究を1.世俗主義に関する理論的・思想的研究、2.世俗主義体制の歴史学的・政治的・法制度的研究、3.世俗化の諸問題に関する研究、に大別し、それぞれに以下に示す研究を行っていく。
1.世俗主義に関する理論的・思想的研究
政治学(イスラーム政治理論を含む)、法学(イスラーム法学を含む)などにおける政教関係論・政教分離論を踏まえつつ、世俗主義に関する理論的・思想的研究を行う。
ここでは、とくに重点的にトルコの世俗主義laiklikの研究を行う。トルコは、世俗主義が国家の不可侵の原則として憲法に明文化されていることから、世俗主義が常に政治的・社会的な議論となり、また同時に、最も理論化されている国である。したがって、イスラーム諸国における世俗主義を研究するにあたって、トルコのそれははずせない。また、トルコの世俗主義laiklikのモデルがフランスのライシテlaïcité原則であることから、両国の世俗主義の比較研究も行っていく予定である。
チュニジア、インドネシア、マレーシアも、その歴史と現状から、世俗主義に関する理論的・思想的研究の重要な研究対象国となる。さらに、他国についても、研究協力者の協力を得ながら研究を行っていく。
2.世俗主義体制の歴史学的・政治学的・法制度的研究
イスラーム運動と動態的に連関する各国の世俗主義体制について、個々の歴史を踏まえつつ、政治学的・法制度的に研究する。これにより、イスラーム運動との間に緊張関係を生み出す政治状況や制度的枠組みが明らかになることが期待される。政治的「世俗派」勢力についても、研究の対象としてここに含まれる。
3.世俗化の諸問題に関する研究
宗教社会学などにおける世俗化論を踏まえつつ、イスラーム社会の世俗化現象もしくは「世俗的」現象について、多様なディシプリンを通じて研究する。これにより、イスラーム主義とイスラーム運動の興隆の背景にある社会現象が明らかになることが期待される。必ずしも理論家や知識人ではない、社会的・思想的に「世俗的」な人々についても、研究の対象としてここに含まれる。
上記の研究の遂行のために、上智大学拠点の他、早稲田大学拠点研究、東京大学拠点研究、京都大学拠点、東洋文庫拠点などとも連携しながら研究を行っていく。
研究活動をすすめるにあたっては、グループを1つの研究班とし、主に研究分担者の立案によって個々のテーマに関する研究会を開催し、現地調査と史料収集、海外研究者の招聘、研究報告書の作成を行う。国際ワークショップの開催については、グループ全体もしくは他のグループとの共同でこれを行う。
行った研究は、個別のモノグラフの他に、上智大学拠点の研究成果の一部として刊行する。ウェブ上の研究活動状況および研究成果の公開については、上智大学拠点の一グループとして、既存の方法に準拠する。