海外出張報告(2013年2月19日~3月12日/アルジェリア))
出張者:私市正年(上智大学外国語学部教授)
出張期間:2013年2月19日~3月12日
本出張においては、植民地期アルジェリアにおけるフランスによるキリスト教布教政策とアルジェリア人の改宗問題を調査した。調査はグリシン図書館での文献調査とカビールでの聞き取り調査の両方を用いた。
植民地アルジェリアにおけるキリスト教への改宗の実態は、ほとんど知られていない現象であり、また何よりもほとんど研究されていない問題である。フランス植民地支配の枠内でキリスト教に改宗したムスリムは、裏切りと不名誉と結びついたイメージの対象となった。このイメージは今日まで存続しているイメージである。ベルベル人の改宗者の場合は、なおさら、アルジェリア人の集合的記憶にとっても、またフランス人の集合的記憶にとっても、やっかいである。というのも、彼らは植民地の同化政策とベルベル神話のイデオロギーの結合の成果とみなされているからである。
実際にカビール地域は、1867年からアルジェの大司教をつとめていたCharles de Lavigerieの指導のもとに、1870年代から始まったキリスト教布教政策の実験場であった。彼は、ベルベル地域にはかつてキリスト教が浸透していたという確信をもって、彼が言う「アフリカのレバノン」の山岳カビール地域で伝道活動を行った。
しかし実際に改宗したカビール人は1920年代で多くても数千人とみられるが、これをアルジェリアもフランスも過剰な意味づけを行ったことがその後のカビール問題を複雑にしている原因である。フランス植民地史の中の問題としては小さな問題でしかなかったが、フランスはカビール神話を作り出してカビールをアルジェリア社会から切り離したことと、アルジェリアは独立後、とくに1965年以降、強めていった体制のイデオロギー化政策があわさって、カビール問題がいびつな形で今日まで問題をゆがめてきているのである。最近になっても、カビール人でキリスト教に改宗した者が逮捕される事件まで起こっている。このことから歴史的な問題がきわめてデリケートな政治、社会問題に変わっていることが確認できる。
文責:私市正年(上智大学外国語学部教授)