海外出張報告(2013年2月19日~3月12日/イタリア)
出張者:三代川寛子(上智大学アジア文化研究所客員所員)
出張期間:2012年9月16日~9月24日
2012年9月17日~22日にわたりローマで開催された第10回国際コプト学会に参加し、研究発表を行った。同学会は、1976年に第1回大会がカイロで開催された後、4年に1度のペースで開催されている。節目に当たる第10回はローマで行われた。受け入れ機関はローマ大学サピエンツァ校、アウグスティヌス教父研究所、バチカン図書館であった。
同学会の参加者はヨーロッパ、北米およびエジプト出身の研究者が多数を占めており、日本からは戸田聡氏(一橋大学特任講師)、辻明日香氏(早稲田大学非常勤講師)、三代川の3名が参加し、研究発表を行った。同学会がカバーする主要な分野は、考古学、美術、言語学、神学、歴史学などであり、大半のパネルが前近代を扱うものの、前回カイロで開催された第9回国際コプト学会からは現代研究のパネルが組まれている。今回の出張者の発表も現代研究のパネルの一部として行われた。
現代研究のパネルは、“Coptic Religious and Political Life in Contemporary Egypt: Recent Scholarly Developments”と題するもので、3部に分かれて計9名が研究発表を行った。発表内容は多岐にわたり、コプトの教会音楽、コプトのカリスマ運動、廃棄物収集人の共同体における外国のキリスト教団体の影響、1月25日革命とそれに伴う宗派間関係の変容、コプトに対する差別と迫害などに関する発表が行われた。出張者の報告は、19世紀末から20世紀前半にかけて行われたコプトによるナイルーズ祭復興運動に関するものであり、古代エジプトに現代エジプト人の人種的・文化的起源を求めるファラオ主義がコプトの宗教・民族的アイデンティティの形成に与えた影響を指摘するものであった。質疑応答では、エジプト・ナショナリズムの分類に関する質問、そしてムスリムの間にもファラオ主義がみられるという指摘が寄せられた。
国際コプト学会の大きな特徴は、欧米の研究者が主導権を握っているものの、コプトの聖職者、特に修道士が多く参加しており、彼らが研究発表をすることが奨励されていることである。修道士らは必ずしも研究者としてのトレーニングを受けているわけではないものの、彼らの一部は自らが居住している修道院の壁画や建築物の構造、修道院の歴史などに関する発表を行った。修道士らは、史資料を外国人研究者に提供するばかりで、自らの宗教・文化遺産に関して発言し、自ら情報を発信する機会が少ないため、彼らにその機会を与える取組みが行われているようである。
また、今回の国際コプト学会では、キリストに妻がいた可能性を示唆するパピルス文書に関する研究発表が行われ、翌日には報道陣が会場に現れるなど、社会的にも注目を集めるものとなった。
文責:三代川寛子(上智大学アジア文化研究所客員所員)