海外出張報告(2012年7月14日~7月23日/マルタ)
出張期間:2012年7月14日~7月23日
訪問地:マルタ共和国ヴァレッタ市
出張目的:シリア学国際学会およびキリスト教アラビア語国際学会参加、研究発表
出張者:辻 明日香(高崎経済大学・非常勤講師)
2012年7月14日から7月23日にかけ、マルタ共和国ヴァレッタ市にて開催された第11回シリア学国際学会および第9回キリスト教アラビア語文学国際学会に参加、そして研究報告をする機会を与えられた。ここにおいて学会の概要、そして研究報告の内容、成果について報告させていただく。
第11回シリア学国際学会および第9回キリスト教アラビア語国際学会には、ヨーロッパ、アメリカ合衆国、中東諸国、オーストラリアなどから320名ほどの参加者があった。日本からはシリア学学会にて高橋英海東京大学准教授、戸田聡一橋大学特任講師、キリスト教アラビア語学会にて辻明日香が研究報告を行った。
シリア学国際学会は1972年にローマにて初めて開催され、その後4年に一度開催され続けている。シリア学とは端的に表現するならばシリア語とシリア語の文献に関する研究であるが、西アジアのキリスト教文化と深く結びついている。キリスト教アラビア語文学とは、イスラーム支配下の西アジア地域にて、キリスト教徒によりアラビア語へ翻訳された、あるいはアラビア語で著された文献を指す。両者とも、古代から現在に至るまでの西アジア地域のキリスト教文化、そしてそれを担った人々の歴史を伝えるものである。
まず、マルタでの学会で目立った点としては、近年、シリア学やキリスト教アラビア語文学、ムスリム・キリスト教徒の関係史を専門とする若手研究者が増加していることであった。彼らの報告はシリア学の伝統的研究分野のほかに、イスラーム期以降のシリア教会信徒の歴史、美術、考古学と多岐にわたった。
キリスト教アラビア語学会にては、コーランなどを題材に、イスラーム・キリスト教・ユダヤ教の思想的・文学的相互影響を指摘する研究が目立った。出張者が報告したパネルにても、このような文脈における報告が見られた。出張者の報告は、14世紀にアラビア語で著されたコプト聖人伝に、マムルーク朝期の歴史叙述の影響が色濃いことを指摘したものであったが、質問に答える形で、ムスリムとキリスト教徒の日常的交流へ話が及んだ。
出張者はコプト史を専門としているが、本学会に参加したことで最も意義深かったことは、通常はエジプトの枠組み内で考えがちであったムスリムとキリスト教徒との関係や、キリスト教徒の文化的遺産について、より広い視野から捉え直す機会を与えられたことである。学会参加者の多くは中東のキリスト教徒であったが、出身地はトルコ、イラク、パレスチナ、レバノン、シリア、エジプトと多岐にわたった。彼らの存在が、西アジアの歴史に重層性と多様性を与えてきたのであろう。西アジア全体の歴史の中にキリスト教徒やユダヤ教徒の営みを位置づけるべく、今後とも努力していきたい。
最後になりましたが、このような機会を与えてくださいましたプロジェクトに御礼申し上げます。
文責:辻 明日香(高崎経済大学・非常勤講師)