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上智大学イスラーム地域研究機構

 活動報告

2011年度第1回研究会報告(2011年7月23日/上智大学)2/5

「インドネシア政治における「イスラーム中道派」 ~ユドヨノ政権とアフマディヤ問題へのその対処~」

発表者:佐々木拓雄(久留米大学准教授)

 報告は、ユドヨノ現政権を、インドネシア政治に昨今顕在化した「イスラーム中道派」の象徴と捉え、「イスラーム中道派」が出現した歴史・社会的背景とユドヨノ政権のイスラームに対する姿勢を概観した上で、イスラームの異端とされるアフマディヤに対するユドヨノ政権の対処を事例に、インドネシアにおける「イスラーム中道派」を論じた。
 佐々木氏は、建国前後のインドネシアでは、世俗主義的ナショナリストとイスラミストによる国家体制をめぐる論争が活発だったこと、しかし、1960年代後半に始まるスハルト体制下では、ムスリムとしての自覚に富むが、イスラミストでも、アバンガン/世俗主義者でもない新しい社会層が出現したとする。彼らは、佐々木氏によれば、「イスラーム的」や「反イスラーム的」という言葉では括れない、「反・反イスラーム」的な人々である。
 また、ユドヨノ現政権は、宗教政治から脱却し、経済・労働・汚職問題など具体的な課題を解決する一方、ムスリムとしてのアイデンティティを強調し、こうした「反・反イスラーム」社会層の支持を集めている。そして佐々木氏は、ユドヨノ政権と「反・反イスラーム」社会層に象徴される「イスラーム中道派」は、イスラミストと世俗主義者の間に位置する存在であることを明らかにした。
 近年、その存在が異端視され、イスラーム強硬派による迫害を受けているアフマディヤ問題に対し、ユドヨノ政権は2008年6月、「3閣僚による合同決定書」を発令した。これは、暴力行為に対する警告をと共に、アフマディヤの教義を事実上否認し、その布教活動を制限するものであった。佐々木氏は、この合同決定書について、アフマディヤの教義を否定することでイスラミスト側の主張をくみ取る一方、アフマディヤの活動を禁制することはなく、継続を許していると分析する。そしてこの合同決定書は、現実主義的な中道派が、イスラミストに接近したことの代価であり、「最小限の制度的イスラーム化」として捉える事ができると結論づけた。

 


 フロアからは、アフマディヤメンバーの社会階層や活動の資金源、インドネシアにおける人権団体の傾向、イスラミストの定義などについて質問が挙がった。これに対し、佐々木氏は、アフマディヤのメンバーの多くはインテリ層であり、近年では両親がアフマディヤである第2世代が増加していること、資金源はメンバーに多い富裕層からの拠出の他、イギリスなどヨーロッパからの資金流入の可能性についても示唆した。インドネシアの人権団体には、そもそも世俗的なグループと、イスラーム既存組織に属しながら、人権に目覚めるイスラーム・リベラルと呼ばれる人々の2種類がいることを挙げ、一方、イスラミストとは、イスラーム原理主義者及びイスラーム主義者のことを指すと答えた。佐々木氏の言うイスラミストとは、イスラーム法に基づく国家体制を目指す人々であり、その中には、政党を作り活動する者もいれば、暴力行為に走るものもいる。さらに2005年以降、対アフマディヤに対する暴力件数が増加したことの理由について、佐々木氏は、2005年にイスラミストが多いインドネシア・ウラマー評議会(MUI)から、アフマディヤの教義がイスラームを逸脱しているとするファトアが出されたことを挙げた。

  (文責 野中葉 慶應義塾大学SFC研究所上席所員)




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