2011年度第一回研究会(2011年7月3日/上智大学)
「アルジェリア・ウラマー協会における政教関係:「権威ある地位にある人々
(ulu al-amr)」の解釈をめぐって」
報告者:渡邊祥子(日本学術振興会特別研究員・東京大学東洋文化研究所)
参加者:12名
このたび、上智大学拠点文科省事業公募研究「イスラーム社会の世俗化と世俗
主義」では、第一回研究会といたしまして、下記の通り、アルジェリア研究者の
渡邊祥子さんにご報告をいただくこととなりました。ご関心のある方は、ぜひご
参加ください。
なお、市ヶ谷キャンパスはセキュリティの関係で、事前に参加者名簿を提出し
守衛が確認することとなっておりますので、ご参加いただけるる方はお手数です
が、できましたら6月21日までに、「第一回研究会」と明記の上、ご所属とお名
前を上智大学イスラーム地域研究機構(ias-site[at]sophia.ac.jp)宛
てにお知らせいただけますよう、お願い申し上げます。
記
日時:2011年7月3日(日曜日)15:00-17:00
会場:上智大学「市谷」キャンパス 研究棟601会議室
*四谷ではございませんのでご注意ください。また、エレベーターは5階までと
なっておりますので、その先6階へは階段をご利用ください。
*JR中央線、東京メトロ有楽町線・南北線、都営地下鉄新宿線市ヶ谷駅 徒歩5分
または東京メトロ有楽町線麹町駅 徒歩5分)
*会場の位置・経路の詳細につきましては、以下をご参照ください。
http://www.sophia.ac.jp/jpn/info/access/accessguide/access_ichigaya
報告者:渡邊祥子(日本学術振興会特別研究員・東京大学東洋文化研究所)
コメンテーター: 工藤晶人(学習院女子大学)
題目: アルジェリア・ウラマー協会における政教関係:「権威ある地位にある人々
(ulu al-amr)」の解釈をめぐって
概要:
アルジェリア・ウラマー協会(1931年創設)は、エジプトの『マナール』派
などの影響を受けたイスラーム改革主義団体であり、フランス植民地時代のアル
ジェリアにおいて、イスラームの自由な実践とアラビア語教育を主張したことで
知られる。
本発表では、コーランに登場する「権威ある地位にある人々(ulu al-amr)」
に対するイブン・バーディース(1889-1940)の解釈を鍵に、ウラマーの社会的
役割や、あるべき政教関係に対するウラマー協会の見解を、同時代の他の論者と
の比較において明らかにする。
申込期限:
6月30日午前10時。ご所属とお名前をSOIAS宛にお送りください。(できましたら6月21日までにお願いします)
*研究会終了後に懇親会を準備しております。おおよその人数を把握するため、
参加予定の方は、その旨をご連絡いただければ幸いです。
お問い合わせ先:上智大学イスラーム地域研究機構SOIAS(ias-site[at]sophia.ac.jp)
---
レポート:
2011年7月3日、上智大学において、「イスラーム社会の世俗化と世俗主義」の2011年度第1回研究会が開催され、渡邊祥子氏(日本学術振興会特別研究員)が報告された。「アルジェリア・ウラマー協会における政教関係-「権威ある地位にある人々(ulû al-amr)」の解釈をめぐって-」と題された渡邊氏の報告は、フランス植民地期の1931年に創設されたアルジェリア・ウラマー協会に関係したウラマーが、政治と宗教の関係をどのように考えていたのかを論じたものであった。なお、アルジェリア・ウラマー協会は、エジプトの『マナール』誌などの影響を受けて、イブン・バーディース(1889-1940)を中心とする在野のウラマーから構成された、イスラーム改革主義団体である。
アルジェリア・ウラマー協会のメンバーが政治と宗教の関係について議論を開始した直接のきっかけは、「アルジェリア・ムスリムの政治的地位の決定」を行うための代表者会議を同協会が発案し、ウラマーがそれに参加したことに対して、批判がなされたことであった。以後、同協会の代表であるイブン・バーディースが主筆を務める雑誌『シハーブ』などにおいて、ウラマーと政治の関係について、様々な議論が展開された。それは、多くの場合、『コーラン』に言う「権威ある地位にある人々」が、いかなる集団を指しているのかという解釈の問題に帰着した。
たとえば、シリアのムスリム同胞団の創設者であるムスタファ・スィバーイー(1915-64)は、「権威ある地位にある人々」にウラマーが含まれるとし、ウラマーが、軍事的・政治的指導者であるアミールとともに政治に参加することを肯定した。また、イブン・バーディースのザイトゥーナ学院での師であるムハンマド・ヒドル・フサイン(1876-1958)は、ウラマーとアミールの関係をいくつかの場合に分けて論じたが、彼は「権威ある地位にある人々」をアミールと同義と解釈し、ウラマーをそれと対置した。それに対してイブン・バーディースは、「権威ある地位にある人々」は、ウラマーとアミールの双方を指していると解釈し、この点において師を批判した。
渡邊氏は、とくにイブン・バーディースの解釈を詳細に紹介され、彼の議論は、ウラマーとアミールの役割の違いを強調するとともに、両者の共同統治を望ましいものとする、古くから見られた議論を受け継ぐものであり、学識(‘ilm)によってシャリーアを確定(ta‘yîn)するウラマーの役割を強調したものであったことを指摘された。また、ウラマーの政治参加を正当化する言説と、ウラマーの政府からの独立を主張する言説とを整理され、アルジェリア・ウラマー協会の「ウラマー・アミール相互依存論」の二つの側面を指摘された。すなわち、①為政者に対してウラマーが忠告を行う文脈においてそれが用いられる場合は、ウラマーの政治参加の論理となり、②ウラマーが政府から独立性を保持しようとする文脈においてそれが用いられる場合は、ウラマーの政治忌避の論理となる、ということである。また、ウラマーとアミールが統合されるのは、シャリーアの実現という目的を双方が共有しているからであり、その意味で、そもそもフランス型の政教分離とは明らかなズレがあることも指摘された。