拠点強化事業「イスラームをめぐる諸宗教間の関係の歴史と現状」
2011年度第一回研究会 報告(2011年6月25日/上智大学)
日時:2011年6月25日(土) 15 :00‐18 :00
場所:上智大学市ヶ谷キャンパス研究棟6階 601号室
参加者:13名
研究発表1:
黒田祐我(早稲田大学)
「中世地中海域におけるヒトの移動 -キリスト教徒傭兵-」
コメンテーター 太田 敬子(北海道大学)
研究発表2:
菅瀬晶子(国立民族学博物館)
「パレスチナ・イスラエルにおけるアル・ハディル崇敬」
コメンテーター 辻 明日香(東京大学)
概要:
研究発表1では、中世西地中海におけるキリスト教徒傭兵についての報告が行われた。キリスト教徒がムスリム君主の下で傭兵になる場合には、(1)ズィンミーがムスリム君主に奉仕した場合、(2)国家間の軍事同盟で一時的にムスリム君主に仕える場合、(3)自発的に越境して軍役を行う場合などがあり、キリスト教徒側は富と栄誉、ムスリム側は密集隊形に慣れた戦力を求めていたことから、双方の利益が一致し、傭兵という形で双方向的なヒトの移動が活発に行われた、とされた。
会場からは、東地中海の事例では、通常ムスリム君主はズィンミーの武装を許可しないため、軍事力を持つ非ムスリムの存在は非常に稀であるという点、そして東地中海においては忠誠心の高い職業軍人としてマムルークが用いられたが、西地中海では奴隷軍人が大規模に用いられることはなく傭兵が雇われたことから、地中海の東と西では軍人の人材獲得方法が大きく異なっていたという点が指摘された。
研究発表2では、現代のパレスチナ・イスラエルとその周辺地域では、マール・ジュリエス(聖ジョージ)とマール・エリヤス(預言者エリヤ)が、クルアーンに登場するアル・ハディルと同一視され、ムスリム、キリスト教徒、ユダヤ教徒から宗教を超えて崇敬を集めているという事例が紹介された。
会場からは、中世のユダヤ教徒の間で預言者エリヤ崇敬が盛んに行われていたこととどのような関係にあるのか、各宗教の信徒が「ハディル」を同一の聖者として捉えているか否か、他にも諸宗教間で共通する聖者が存在するか否かなどの質問が寄せられた。
(文責:三代川 寛子・上智大学アジア文化研究所客員研究所員)