海外出張報告(2011年2月5日~16日/ドイツ・トルコ)
出張期間:2011年2月5日~16日
出張者:岩坂将充(上智大学ヨーロッパ研究所RA、上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻客員研究員)
本出張では、トルコ政府の世俗主義政策が在外トルコ系住民たちにどのように影響しているのかについて、特にトルコ系住民の多いドイツを中心に調査を行った。
ドイツにおいては、トルコ共和国宗務庁の事実上の在外機関である宗務庁トルコ・イスラーム連盟(Diyanet İşleri Turk İslam Birliği / DİTİB)の本部が置かれているケルンと、トルコ系住民が最も多く居住するベルリンを訪問した。DİTİB本部では、社会活動等に関するインタヴューならびに購買部での書籍の購入を行った。また、現在DİTİBがエーレンフェルト地区(Ehrenfeld)に建設中であるDİTİB中央モスク(DITIB-Zentralmoschee KÖln)を見学し、周辺のトルコ系住民にもインタヴューを行った。ケルンではその他、「トルコ人街」として知られるコイプシュトラーセ(Keupstraße)を訪問した。ベルリンでは、DİTİB管轄下のドイツ最大級のモスクであるシェヒトリキ・モスク(Şehitlik-Moschee)や在ベルリンのDİTİB関連施設を訪問し、施設や現地での活動に関するインタヴューを行った。また、ベルリン自由大学トルコ学研究所(Institut fur Turkologie, Freie Universitat Berlin)を訪問し、研究状況や図書室についての説明を受けた。
ドイツでの調査の後、トルコへ移動し主にアンカラで図書資料等に関する調査を行った。アンカラでは、ビルケント大学(Bilkent Universitesi)附属図書館での世俗主義に関する図書資料調査に加え、憲法裁判所(Anayasa Mahkemesi)附属図書館を訪問し、法律面に特化した図書資料を収集した。憲法裁判所は2009年より郊外のアフラトルベル地区(Ahlatlıbel Mahallesi)に移転したため、アンカラ中心部からのアクセスは悪い。しかし、訪問者が少なく資料のコピーなどのサービスが充実しているため、開館時間(平日9時~17時)を上手く利用することで、短期間で十分な調査が可能であると思われる。これらに加え、イスタンブルでは古書店を中心に図書資料の収集を行った。
以上のような調査によって、「親イスラーム」とも見做される現在のトルコの公正発展党(Adalet ve Kalkınma Partisi / AKP)政権の下での世俗主義政策の「緩和」が、ドイツにおけるDİTİBの活動を通してトルコ系住民にも一定の影響を与えていることが明らかとなった。しかしこれはAKP政権の政策によるものだけではなく、特に9.11以降のドイツにおけるイスラームの在り方も大いに関係していると考えられる。ドイツにおけるトルコ政府の役割として、トルコ系住民のドイツ社会への「統合」支援が重要となってきていることから、「トルコ性」よりもより連帯しやすい「(『穏健な』)イスラーム」に重きを置く傾向にあるといえよう。今後も、トルコ国内における世俗主義の在り方とその変化にも注目しつつ、分析を行っていきたい。
文責:岩坂将充(上智大学ヨーロッパ研究所RA、上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻客員研究員)