2009年度第1回研究会報告(2009年6月27日/上智大学)
場所:上智大学2号館630a
発表者:粕谷元氏(日本大学)
参加者数(延べ):17名
本発表では、近現代トルコ史上特筆される出来事でありながら意外に実態が知られていない1925年のタリーカ閉鎖について、最近の研究状況をふまえつつ問題の全体的な枠組みが提示された。
発表の梗概は以下の通りである。20世紀中葉までは一種のタブーであったタリーカ閉鎖についての研究はきわめて少ない。実証的データ(一例として、閉鎖されたテッケの実数)についても、限られた先行研究に依拠せざるをえないのが現状である。タリーカ閉鎖にいたる前史については、オスマン帝国期に政府によるタリーカ統轄・監督政策の蓄積があり、シャイフ養成制度の改革要求などがあった。独立戦争へのシャイフたちの協力は彼らの民衆動員力の大きさを示したが、そのことは、逆に後の統制の背景となった側面がある。トルコ大国民議会第二議会(1923-1927)の時期に、宗務局設置による管理の強化が進み、シャイフ・サイードの反乱を直接のきっかけとして、国民議会での形式的審議を経て、タリーカ閉鎖に関する法が1925年12月に施行された。こうした短期的・政治的背景とともに、タリーカ閉鎖には思想的源流がある。特に、トルコ革命のイデオローグであるアブドゥッラ・ジェヴデトに代表される欧化主義や唯物論的な思想が重要な役割をはたしたと考えられる。
以上の発表に対して、史料の所在などの基礎的情報や、タリーカ閉鎖の思想的背景と政治的背景の関わり合いをどうとらえるのか、また、施設(テッケ)の閉鎖、思想の統制、タリーカの活動禁止という多層に渡る問題を法律の施行過程からどう読み解いていくのか、という本質的問題について、16名の出席者の間で活発な討議が行われた。研究会前半におこなわれた高橋圭氏による発表との比較という視点からも論議が深まり、19-20世紀東地中海地域におけるスーフィズムと世俗化という問題について、今後の検討を深めていくための土台となる知見が確認された。
文責:工藤晶人(大阪大学)