El Hassani教授講演会(2009年1月26日/上智大学)
場所:上智大学2号館510号室
発表:Mohamed Kacimi El Hassani氏(アルジェ大学CREAD教授)
“Rahmania Tariqua: Roots and Prospects”
報告:
講演者カーシミー教授は社会学、歴史人類学を中心に多彩な分野について知見を持ち、本講演ではアルジェリアにおいて最も重要なスーフィー教団の一つであるラフマーニー教団の歴史と現状について論じた。講演の梗概は以下の通りである。
アルジェリアにおけるスーフィー教団とザーウィヤの役割は周縁的なものではない。スーフィー教団は民衆の社会的紐帯の基盤として歴史的に様々な役割を果たしてきており、現代社会においてもその役割は大きい。ラフマーニー教団は、18世紀にアルジェリアのカビリア地方に生まれカイロでハルワティー教団の教えを受けたスィーディー・ムハンマド・イブン・アブド・アッラフマーン・アル・アズハリーを創始者とする。その初期の活動を伝える史料として、創設者から門人へと送られた書状が残されている。教団はカビリア地方を起点としてアルジェリア中部、東南部へと勢力を広げ、その規模については諸説あるものの、19世紀末の統計によれば200前後のザーウィヤと10万以上の信徒を擁するアルジェリア最大のスーフィー教団であったとされる。フランス植民地支配下でのアルジェリア人の抵抗運動においてラフマーニー教団は大きな役割を果たしたが、その一方で、フランス当局によって多くのザーウィヤが閉鎖されるなど教団の勢力は減退を余儀なくされた。現代のアルジェリアでは、ラフマーニー教団は1990年にザーウィヤを基盤とした学術教育団体を組織し、イスラームにもとづく社会改革にむけた教育・研究の推進、その拠点となるザーウィヤのネットワーク再建を柱として活動を展開している。
以上の講演を踏まえて、ラフマーニー教団の教義の特徴、アルジェリアの他のスーフィー教団との比較、インドネシアのイスラーム団体との比較という三つの観点を中心に出席者との間で討議が行われた。ラフマーニー教団の歴史は、その重要性に比して研究の蓄積が十分とは言えない。その空隙を補う上で、カーシミー教授の広い学識と、氏自身の教団との家系上のつながりに裏付けられた大局的な知見が提示された本講演は、意義深いものであった。
文責:工藤晶人(大阪大学大学院人間科学研究科特任研究員)