舛方 周一郎さん(2013年博士後期課程満期退学)
東京外国語大学世界言語社会教育センター 講師
―――――国際関係論専攻を選んだ理由について教えてください。
高校卒業後,ブラジル人写真家セバスチャン・サルガドの写真展に赴くことがあり,世界各地で発生する環境,紛争,人権などの問題は人類にとって共通の問題なのだという彼の訴えに心打たれました。その後,大学在学中にブラジルへ留学して,難民問題などの途上国が抱える社会問題を目の当たりにしましたが,その問題の改善に情熱を傾ける研究者との出会いが契機となり,問題の原因を考察・分析して,学術的な立場から人々の安全が保障される制度づくりに貢献したいと思うようになりました。本専攻を進学先に選んだのは,今にして思えば本専攻が掲げる地域に立脚した国際関係論研究が,自らの問題意識を解明するために適していると考えたからです。
―――――国際関係論専攻で学んだことについて教えてください。
一言でいえば,Think globally Act Locallyです。つまり,国際関係論の研究により養った理論蓄積・分析手法を基盤とするグローバルな視野と,英語やポルトガル語など複数言語を用いた現地での情報収集や聞き取りなど,実際にはローカルに行動・調査する方法です。この研究のスタイルは,今でも自分の強みです。さらに長い大学院生活の中で学んだことは,自分を支えてくれる先輩・後輩・研究仲間を大切にすることです。現在,産学官民を問わず多くの人を巻き込みながら,新しい目標に挑戦するようになったのも,難題の解決のためには助け合い,常に仲間を大切にしてきた研究室の雰囲気があったおかげだと思っています。
―――――現在はどのようなお仕事・研究をされているのですか?
環境保護と経済成長の間で政策選好を迫られる新興諸国の中で,ブラジルでは気候変動政策を実施する制度改革がどのように進展してきたかという課題を研究しています。ブラジルを含むラ米地域は,国際政治学では周辺の地域に位置づけられてきました。しかしラ米地域は,長らく民主化・紛争・経済発展などの普遍的な政治現象を理解するための現場でした。この地域が直面してきた課題は,現在のアジア・アフリカ・中東諸国が直面する課題でもあります。ラ米地域の経験をほかの地域にも応用することで,学生一人一人がもつ問題意識を引き出し,自らの力で解答を導く支援をしながら,複雑な社会現象を読み解く手がかりを学生たちとともに学んでいます。
―――――受験生・進学を考えている方へのアドバイスをお願いします。
受験生・進学を考えている方には,まず本専攻において自らの人生をかけることができる大好きな仕事をみつけてほしいです。要領が悪い私は,これまで何度も課題に挑戦して,同時に何度も挫折を経験してきました。それでも諦めずに研究を続けてこられたのは,才能でも能力でもなく,何よりも研究をすることが好きだったからです。グローバル化が進む現代において,複雑な社会現象を分析して国際社会に発信する研究者の重要性がいま改めて問われていますが,この研究者もまた社会を構成する大切な仕事の一つです。もし将来の選択肢の一つに研究者という仕事があるのならば,その仕事に情熱を込めて取り組んでください。そうすれば必ず道は開けます。
<略歴>
2018年上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士後期課程修了、博士(国際関係論)。サンパウロ大学国際関係研究所客員研究員、神田外語大学専任講師を経て2020年4月より現職。専門は国際関係論・現代ブラジル政治。著書に『「ポスト新自由主義期」ラテンアメリカの政治参加 』(共著/2014年/アジア経済研究所)、『新版 現代ブラジル事典』(分担執筆/2016年/新評論)、『ラテンアメリカ 地球規模課題の実践』(共著/2021年/新評論)、『つながりと選択の環境政治学:「グローバル・ガバナンス」の時代におけるブラジル気候変動政策』(単著/近刊/晃洋書房)など。