教員紹介

学生による教員インタビュー
下川雅嗣教授

アジア各国の都市インフォーマルセクター(注1)や、アジア各国の貧困住民の様々な取組みや可能性、また国際機関やNGOとの関わりについて経済学的研究を行う。授業では、現実の経済構造とともに、経済学の理論や考え方を学び、「どのようにして貧困が起こり、どうしたらその構造が変わるのか」と貧困とその原因を構造から考えるきっかけを提供している。下川先生から見たこの分野の面白さ、そして貧困に興味がある学生が経済学を学ぶ意義を聞くべく、インタビューを行った。(注1:発展途上国に多数みられる近代的な産業部門には属さない経済活動部門のこと。露天商、行商、廃品回収、バイク運転などが例としてあげられる。)(取材・文 総合グローバル学部 4年 吉田芽衣)

研究内容について

発展途上国の都市インフォーマルセクターやスラムの経済学的研究を行っています。その際に、インフォーマルセクターやスラムを無くしていくべきものだとは考えずに、インフォーマルセクターの小規模事業者やスラムの貧困者たちの可能性に注目して、彼らが発展することで貧困解消がなされていくと考えています。彼らの発展を妨げている障壁(例えば、土地へのアクセス、クレジットへのアクセス、マーケットへのアクセス、技術へのアクセスなどに対する障壁)を明らかにし、彼ら自身によるその障壁を乗り越える様々な試みを見つけ、それを先進国に紹介したり、それらの試みの経験交流を助けたりしながら、その動きを大きくできればと思っています。また、そのような動きに対して、国家や国際機関がどのように協力できるのかも研究しています。同時に、最近は、グローバル化の進展、特に企業の国家を超えた活動によって、発展途上国のみならず先進国においても、貧困や格差、社会的排除が拡大しているので、その様態や、どのように貧困や格差、社会的排除が生み出されているのかも研究しています。

経済学を学びはじめたきっかけ

現在専門にしている経済学を学び始めたのは、就職してからしばらく経ってからの事でした。元々は理系で大学時代は応用物理系の学科に所属し、卒業後も大学院で同じ分野の研究をしていました。経済学を学ぶに至った背景には、元々からあった貧困や労働問題への関心と、「人が大事にされる社会を作りたい」という想いがあったからです。大学院卒業後は一度労働に関する仕事に就き、同じ頃あることをきっかけにフィリピンのスラム街で1週間程度暮らす経験をしました。偶然の出来事だったのですが、そこでの生活が当時の自分にとって興味深く、とても刺激的なことでした。特に印象的だった出来事があります。当時フィリピンのスラム街の生活は日本に比べて非常に貧しかったので、私は現地の人に「何か自分に援助ができないか」と質問しました。すると「何もしないでくれ。日本でも生活によって、私達(フィリピン人)の生活が悲惨な状況になっている。だから日本社会を変えてくれ。」と断られてしまいました。それ以降、より良い社会を作るには目の前の貧しい人の支援ではなく、社会の構造自体を変える必要があることに気づきました。その後貧困や差別といった社会問題を扱いたいという想いを抱いていたところ、経済学を勧められ大学院への進学を決めました。当初は1.2年でやめるつもりでしたが、経済学を学んでからスラムを訪れた際に以前と見え方が見違えるように違ったんですね。徐々に経済学の面白さに気づき研究を続け、現在に至ります。

経済学の面白さ

スラムやそこで生活している人々の可能性や力を探すことがとても面白いです。かつて私はスラムを悪いものだと捉えていました。しかしスラムというものは、農村がたちゆかなかった人たちが都市に出てきて生き延びるために形成したものであり、彼らの視点で見れば自由や発展への第一歩なのです。スラムを悪いと捉えるのは、政府や上からの視点であるということを認識しました。視点を変えてスラムの光に注目すると可能性に溢れていることに気づくことができ、日本人が学ぶことが沢山あります。また、どの国に行ってもスラムで本気で活動している人がいて、その人たちを一緒に活動することはとても楽しいです。

授業について

現在は「国際経済学」、「国際政治経済論 経済学的アプローチ」、「アフリカ研究概説」、「国際政治経済論」の授業を担当しています。

担当する授業について教えて下さい。

「国際経済学」の授業では、経済学の基礎的な論理を理解することを目指し、市場メカニズムや国際貿易などの内容を扱っています。「国際政治経済論 経済学的アプローチ1」の授業では、経済学の基本的な考え方や基礎理論を学びます。市場メカニズムや国際貿易の理論を扱い、貧困国・貧困者が発展できない社会や世界の構造を知り、分析できるようになることを目指しています。「国際政治経済論 経済学的アプローチ2」の授業では、貧困問題の概要やアジアを中心に貧困の現状を学んだ上で、貧困者が発展していくための取り組みや各種機関の役割について学びます。 写真1:パキスタンシンド州の貧困地域で活動している人たちと(2020年) 写真2:インドネシア各地の貧困地域の強制排除について聞き取りをしているところ(2019年) 写真3:日本の東京の野宿者の強制排除とインドネシアジャカルタのスラムの強制排除についての議論(2019年)

メッセージ

学生に伝えたいことは2つあります。1つ目は、自身でBoundary(境界)を作りのではなく、なるべく自分の世界を広くして本当に苦しんでいる人に想いを馳せれる人になって欲しいです。そして2つ目は、その苦しみの原因や構造を見抜けるようになって欲しいです。自分の中に湧いてくるちょっとした疑問や関心を大事にしていると、境界に縛られず自分から遠い世界にも関心が湧いてくると思います。