教員紹介

学生による教員インタビュー
戸田美佳子准教授

中部アフリカのカメルーンやコンゴで障害者に関する人類学的研究や、アフリカ熱帯雨林における森林資源の利用に関する実践的研究にたずさわる。フィールドワークの話を交えた戸田先生の授業では、地域研究や人類学を通した異文化への気づきともに、「自分たちはなぜこうなのか?」と自文化を問い直すヒントを得ることができる。今回は戸田先生の研究内容と授業について、インタビューを行った。(取材・文 総合グローバル学部 4年 吉田芽衣)

アフリカに興味をもったきっかけについて

実は元々理学部の物理学科だったんですが、みなさんと同じ大学3年生の時に調べ物をしていた時に、アフリカのインタラクション研究(相互行為研究)の動画に出会ったのがきっかけでした。アフリカ熱帯雨林に暮らす農耕民男性が大きな声で選挙演説するかのように発話する映像で、日常の拡散的な(一方的な)コミュニケーションを紹介するものでした。「コミュニケーションって1対1じゃなくても成立するんだ」ということを知り、そこからアフリカ研究に興味を持ち、大学院への進学とアフリカでのフィールドワークを決めました。それまでは宇宙や自然に興味があったんですが、人間の方が不思議だなあと思い・・・大学3年生の時にいきなり進路を変えました笑 (写真:カメルーン狩猟採集バカの集落)

フィールドワークの面白さとは

これまでの「当たり前」の世界から外の世界に一歩足を踏み出して、わからない他者や異文化に出会うことで気づけることがあります。そこで重要なのは、私たちには風変わりに見える習慣や生活にも合理的なルールがあるのではと理解すること、そして自文化への問い直しなのだと思います。私にとってカメルーンで出会った障害者が印象深く感じたのも、日本での日常の中で障害を持った人と接する機会が多くなかったのかもしれないと考えています。(写真:フィールドでのインタビュー風景)

研究テーマについて教えてください

研究のテーマは大きく2つあり、1つ目は「障害者に関する人類学的な研究」です。きっかけは、初めてフィールドワークでカメルーンに行った時に、町中で障害を持っている人によく出会ったことです。そこから障害者の社会性、つまり社会のなかでの障害を持つ人びとのありように関心を持ち、障害者研究をはじめました。人間の身体と環境の環境の関係に関心があり、障害者の生業活動を中心に調査を実施しています。2つ目のテーマは「アフリカ熱帯雨林地域における保全と地域住民の関係」です。 今なお、調査地のアフリカ熱帯雨林は国立公園化や森林伐採が進み、そこに暮らしてきた人びとの居住地が限定され、生活がより厳しくなっています。また野生動物を狩って生活の糧を得る先住民は、野生動物の保護と先住民の伝統的な暮らしの権利という、相対するグローバルな価値観のなかで、現実問題の対処を迫られています。そうした複雑な状況のなかでカメルーン熱帯雨林において地域住民と森林資源マネジメントの協創を目指すための実践的な取り組みをはじめました。(写真:コンゴ共和国ブラザヴィルの港で働く障害者)

授業について

現在は「環境と人間」、「アフリカ社会論」「アフリカ研究概説」、「特講:アフリカの社会と文化」、英語科目の「LIFE AND CULTURE IN AFRICA」の5つの授業を主に担当しています。

先生の授業について教えて下さい。

まず「環境と人間」では、人類学の視点から地球環境問題を捉えることを目的として、とくにカメルーンの熱帯雨林に住む人びとの生活とともに、文化人類学の視点から自然との共生について考える授業です。「アフリカ社会論」は、先住民問題や障害者、言語マイノリティやLGBTQといった「社会的マイノリティ」から現代アフリカ社会を読み解くことを目指した授業です。周縁化される背景と枠組みを理解することは大事ですが、最終的には目の前で対峙している人との関係にもどって判断できるように、日常的な実践のなかで彼らがその問題にどう取り組んでいるのかを伝えるようにしています。「アフリカ研究概説」では、アフリカに関する基礎的な内容を自然地理から歴史まで包括的に学ぶための科目です。「アフリカって面白いんだ」という事を伝えながらも、授業がひとつのアフリカのイメージを作り上げないように意識しています。授業がメディアのように機能して、偏見を助長することもあり得ると思います。アフリカは54カ国もあり、多様な民族・言語・生態環境をもつアフリカのそれぞれの地域の特徴を丁寧に伝えていくように気をつけています。

メッセージ

日常の中でアフリカについて知れる機会はそれほど多くないと思います。最前線でアフリカ研究をし、アフリカについて学生に伝え続けている戸田先生から、上智の学生や上智大学に入学を検討している方に向けて伝えたいことをお聞きしました。

最後に学生にメッセージをお願いします

アフリカに関心をもったら、まずはアフリカ出身者の小説を読んでほしいと思います。それぞれの出身の人が書いている小説は、その地域や文化、そこでの世界観を私たちに伝えてくれます。私たちが日常的にメディアを通して知るアフリカは「問題」として伝わることが多いですが、アフリカはそれだけではないんですね。そこに息づく人びとの営みや信仰、文化があって、高校生にも大学生にも文学を通してそういったものに触れてほしいと思います。あまりみんな読んでくれないんですが…(笑)、日本でも簡単に手に入るんです。私の一番のおすすめは『やし酒飲み』という本です。奇想天外なストーリーですが、森に暮らしている人たちの世界観が色彩豊かに描かれていて面白いんです。色んな分野で活躍されているアフリカの小説家の本を読んで、アフリカに触れるひとつの機会にしてみてほしいです。