『新聞記者を目指して』
進路区分 | 就職(企業) | ||
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進路先 | 日本経済新聞社 | ||
氏名 | 菊池 喬之介 | ||
メジャー | 中東・アフリカ研究 | マイナー | 国際政治論 |
入学 | 2016年4月 | 卒業 | 2021年3月 |
新聞記者になることは、私の以前からの夢でした。
文字が読めるようになった頃から何かしらの活字を読むのが好きであった私は、作家なり編集者といった文章に携わる仕事に就きたいと考えていました。その中でも新聞記者を意識するようになったのは、中東に関心を抱くようになってからのことです。
ほとんどの日本人にとって中東やイスラームは馴染みの薄い存在かと思います。日本で出回る中東に関する情報といえば、紛争やテロなどに関するものがほとんどで、それも瞬間風速的に忘れ去られてしまいます。中東やイスラームは特異で自分たちとは交わらないものと捉えられている状況が、今に至るまで当然のように存在しています。無関心や偏見がいかに不条理か。高校生のときにパレスチナ問題に関心をもって以来、そうした問題意識を持ってきました。私が新聞記者を志すようになったのは、自らの目で現地を見つめ社会に発信できる新聞記者ならば、その不条理に向き合うことができると思ったからです。
新聞記者になりたい。中東で活躍する特派員になりたい。その一心で FGS に入学しようと決めました。ただ、学生生活を振り返ってみると決して中東一辺倒で突き進んだというわけではなかったように思います。むしろ、多様な地域や学問領域を学ぶことが許されている寛容な学習環境に身を任せて、様々な分野をつまみ食いしました。アメリカや EU の政治、あるいは障害者雇用、ジャーナリズム論、アメリカ文学など、関心を引かれた授業は片っ端から履修しました。
他分野の知識は、中東の諸問題への理解を深める上で大いに役立ちました。例えばパレスチナを取り巻く現代の中東政治を考える上で、アメリカというアクターを無視することはできないでしょう。あるいは、中東諸国から生まれる難民と EU の仕組みは、庇護の観点から考えれば切っても切り離せないものです。卒業論文を執筆するにあたっては、ドイツとフランスをフィールドにした移民研究から着想を得て、レバノンにおけるシリア難民を扱いました。単に広く浅くではなく、知を深めるための学び。それを実践できる懐の深さが FGS にはあると思います。
3 年次から 4 年次にかけては、パレスチナとヨルダンに計 10 ヶ月の間留学しました。自らの五感で感じ取った現地での経験は、今の私にとって本当に大切なものです。多くの友人に恵まれ、行く先々で素敵な出会いがありました。もちろん、時には嫌な思いをすることもありましたが。明るさだけでなく狡さも含めて人間臭い。パレスチナの人々の愛らしさはそこにあると思います。だからこそ、ふと垣間見える困難な現実に心を痛めました。全土に張り巡らされた検問所、脆弱なインフラ、物資の欠乏。そうした窮状を話してくれた人々の表情や声色には、悔しさや憎しみ、諦めといった複雑な感情が滲んでいました。混沌とした中東情勢のはざまに私が出会い話した彼らが確かに存在していることは、もし伝える立場として中東に携われるのならば心に留めておかなくてはいけないと感じています。
帰国後すぐに新聞社を中心に就職活動を始め、日本経済新聞社から内定をいただきました。入社を決めたのには、大きく二つの理由があります。一つは海外駐在への道が最もひらけていると感じたから。
グローバル戦略を重視していることや紙面で国際情勢を手厚くカバーしていることは、特派員志望である私にとって魅力的でした。加えて、インターンや選考を通して自分の留学経験が他社に比べて評価されていると感じたことも大きかったです。もう一つは社是に掲げるように「中正公平」な偏りの少ない紙面に惹かれたから。特定の主張一辺倒にならない姿勢は、私が中東を捉える中での意識と重なる部分がありました。時にはわかりづらさを招いてしまうのかもしれませんが、愚直な報道の形の一つではないかと思っています。
これから FGS を目指し入学される皆さんは、大なり小なりグローバルな問題に関心を持っていることだろうと思います。自分の無知を自覚し、知への探究心を持って学生生活に臨めるのならば、多様な選択肢と優秀な先生方がその好奇心に応えてくれるはずです。FGS での学びを終えた私はそう思います。