大学院とはどういうところか

フランス文学専攻の場合

知の探索

フランス文学科に入学する学生の大半は、大学で初めてフランス語を習い始めます。文字どおり初歩の初歩から、4年次にまがりなりにもひとつのテーマについて卒業論文をまとめるまで、限られているとはいえ、この4年間という時間は、最終的に自分なりにテーマを見つけてそれについて思考を練っていくための、ものすごく貴重な時間であると思います。

大学院とは、学部でのこの4年間の準備をいしずえとして、さらなる知的探索を進めていく場にほかなりません。そしてこの「知的探索」はひとつのきわめて具体的な目標をもっています。つまり修士論文の執筆です。

学部時代の勉強では、どちらかといえば広く浅くという方向づけのもとでいろいろな知識を吸収していくことが多いかもしれません。しかし大学院では、そのような方向づけ以上に、あるテーマの徹底的な掘り下げという要素が重要になります。そうでなければ、A4で50枚以上という修士論文の分量に見あうだけの実質をとうてい得ることはできません。

たしかにこれはそうたやすいことではないでしょう。しかしそうすることで初めて見えてくるものがあります。こういったことをとおして、人はいわゆる《研究の醍醐味》というものを知るのです。

以上のようなことは、けっしてごく一部のかぎられた人々のためのものではありません。一定の知的好奇心をもち、学ぶ意欲をそなえた人であれば、充分にありうる学部卒業後の選択肢のひとつです。大学院に入る人のすべてが研究職をめざすわけではなく、博士前期課程を修了したあと、一般的な意味での就職をするのもむしろふつうのことです。

フランス文学専攻の大きな特徴

フランス文学専攻は、フランス文学が本質的にもっている「複眼的思考」と「異質なものへの寛容さ」をモットーに、教員と院生、また院生同士がひとつになって形成する学びの共同体(コミュニティ)です。
そしてこの理想の実現のために、教員それぞれが、研究者・教育者として研鑽を積み、院生が実り豊かな研究生活を送れるような知的環境の充実をめざしています。
さらには、国際社会において活躍しうる人材の養成に力を注ぎ、そのために高度のフランス語力と幅広いフランス的教養を身につけうるカリキュラムならびに指導体制を、可能なかぎり提供しています。社会人にも門戸を開いて、大学院という場が院生同士が相互に刺激し合える魅力ある知的環境であるべく、力を尽くしているのです。

博士前期課程と後期課程の違い

博士前期課程と後期課程の違いに触れておきましょう。学部4年間の勉強の延長(あるいは集大成)として、修士論文の執筆をもってひとつのサイクルの環を閉じる博士前期課程にたいして、後期課程は原則としては専門的な研究職をめざす人のための場です。つまりプロの研究者になるための訓練の場ということで、いきおい、要求される水準も高くなるし、いっそうの努力が必要になります。そして博士前期課程で修士論文を書くように、後期課程では博士論文を書かねばなりません。
各種奨学金あるいは交換留学制度を利用してフランス語圏の大学に留学し、そこで論文を完成しても、あるいは上智大学に残ってそのまま論文を提出しても、どちらでもかまわないのですが、いずれにせよこうして博士論文の完成をもって、大学での学びはひとつの大いなる意味をもって輪を閉じることになるのです。

共同体のすがた

先に記したように、大学院とは、学問への志を同じくするある限定された数の人々が形づくるひとつの共同体です。もちろんそこに公的な組織としての側面があることはいうまでもなく、学部と同じように授業の登録、単位の認定、成績評価がおこなわれます。
けれどもそうしたことをあくまで共同体の基盤としつつ、しかしそれはたんなる基盤というだけで、じっさいにはもっと軽やかにかつゆるやかに人と人が結びあってひとつの群れをなしている、理想的にいえばそれが大学院という「場」のすがたなのです。

フランス文学専攻主任 吉村和明