学校法人上智学院カトリック・イエズス会センター

お知らせ

「イエズス会使徒職全体の方向づけ2019-2029」についての解説が示されました。

2019.07.18

解説

日本では馴染みのないカトリックやイエズス会用語を説明し、内容をよりよく理解するための助けとする。

A 霊操および識別を通して神への道を示すこと
「霊操および識別」について。
イエズス会の創立者である聖イグナチオ・ロヨラは自分自身の回心体験や修行中に得た神秘的な体験に基づいて「祈りの手引き」を書き留めて、指導を求める人にはそれを元に指導していた。後年、「手引き書」として完成させたものが『霊操』である。「霊操」は、文字通り、「霊の体操」である。祈りの種々の方法を行うと、霊操する者はさまざまな心の動きを体験する。元気になったり、感謝したい気持ちになったり、賛美の心が高まったり、愛の深まりを感じたりする。逆に、元気がなくなったり、罪深い思いになったり、後悔の念が強くなったり、落胆したりする。このような動きを「霊の動き」というが、その動きに気づき、その動きが自分自身をどこへ導いていくのかを知り、よりよいもの(magis)に向かって何をなすべきかを判断し、決断することを「識別」という。この「霊操」と「識別」は聖イグナチオの霊性のもっとも特徴的なことであり、イエズス会も大切にしてきたことである。

UAPはまず第一にこれを提示し、「霊操」と「識別」により親しくなることによって、神を知り、現代という時代状況にあって、何をなすべきかを知り、実践することを掲げた。
また、今回のUAPの四つの項目を公布するにあたって、総長は何度も「識別」の結果であったこと、そして「共同識別」(communal discernmentとかdiscernment in common)であったことを強調している。これは、「識別」のプロセスを個々のイエズス会員が自分の属している共同体のなかで、また、働いている仲間とともに行うことを意味する。イエズス会がまだ創立される前、聖イグナチオとその同志たちは、どのような修道会にするのかをともに識別し、その結果、自分たちが設立しようとする会の名前を「イエズス会」とすることやこの会を特徴づける生活様式や行動様式を定めた。このことから、「共同識別」もイエズス会の特徴となるが、とくに、36総会(2016年)はこれを意識して開催された。

B 和解と正義のミッションにおいて、貧しい人々、世界から排除された人々、人間としての尊厳が侵害された人々とともに歩むこと。
「和解と正義のミッション」について。
「和解」は、使徒パウロの書簡でも強調された務めであった(2コリント書5章10節参照)。35総会(2008年)は、グローバリゼーションが急速に進展していく世界の状況を考察しながら、そこから生じた光と影を見つめ、影の部分に焦点を当て、そこから見えるさまざまな問題の解決に取り組むために「和解」という言葉を用いた。世界の各地で起こる紛争、宗教上の対立、難民の発生、自然環境の破壊といった負の側面は、「人間同士の和解」「被造界※」との和解」そして「神と人間との和解」なしに根本的解決に至ることはないからである。そのような「和解の務め」に従事することによって、この世界に等しく人間としての尊厳が守られ、政治の安定、経済の均衡、社会の安全を図る「正義」のミッションは成り立つのである。これらのことを踏まえて、総長は第二の項目を挙げている。

※ 「初めに、神は天と地を創造された」(創世記1章1節)という言葉から、「被造」(造られた)という用語が使われている。

C 希望に満ちた未来の創造において若い人々とともに歩むこと。
最近、カトリック教会は「若者」(Youth)をテーマにした会議を開催し、若者が置かれている状況を見据えながら、若い人々のために、若い人々とともに歩む姿勢を強く打ち出している。2018年に開かれた「世界代表司教会議」(シノドス※1)のテーマは「若者、信仰、そして召命※2の識別」であった。これからの未来は若者によって担われ、作り上げられるものであるということは当然である。しかし、その若者が置かれている状況や直面している課題は解決困難で克服しがたいものが多々ある。そのような状況をカトリック教会は直視し、若者の声に耳を傾け、若者とともに歩むことを根本的な指針としたのである。
こうした動きを受けて、総長は第三の項目を掲げた。イエズス会が携わる使徒的な仕事は若者と関わるものが多い。教育事業はその最たるものである。もともとイエズス会はその創立当初から、「青少年の教育」に特別に留意し、そのことを会員が宣立する誓願にも加えている。こうしたことからも、若者の世話をし、ともに歩むことは現代のイエズス会に求められることである。

※ 1世界各地を代表する司教が集まって開催される会議。カトリック教会の宣教方針を決定する重要な意志決定機関としての役割を果たす。

※2 「ミッション」(使命)は神から呼ばれたがゆえに従事しているという思いから「召命」”vocation”と言われる。ラテン語の”vocare”(呼ぶ)に由来。なお、”mission”も”mittere”(派遣する)に由来する。

D 「ともに暮らす家」(地球)への配慮と世話を協働して行うこと。
教皇フランシスコが回勅※1『ラウダート・シ』を発布(2015年)して以降、カトリック教会は言うに及ばず、世界中で環境破壊に対する危機感と問題解決への動きは高まっている。環境破壊の危機は叫ばれて久しい。同時にそれはさまざまな問題を抱えた社会の危機をも生み出し、環境破壊と社会危機は密接な関係にあることが指摘され、「エコロジカルな回心※2」の必要性が求められている。こうしたことは世界の動きであることを誰もが感じていることであろう。
総長は、35総会でも取り上げられた「被造界との和解」のミッションを踏まえて、神の創造のわざである地球への配慮と世話を第四の項目として掲げたのである。

※1 教皇がカトリック教会において取り上げなければならない緊急の課題について、教皇自身の見解を述べ、教会の根本的な姿勢を示すときに発布されるもの。世界各地の教会に回された勅令という意味で回勅”encyclica”と呼ばれる。

※2 環境問題を考え、環境保護のために自分自身の生活様式を変えることを「エコロジカルな回心」という。

UAPに関する解説は以上であるが、これを発表するに至った経緯を説明しておく。そのプロセスを知ることは、UAPが公布されたことの重要性を再確認することにも繋がるからである。

ソーサ総長は、36総会(2016年)から「コルベンバッハ総長によって継承された現在の優先課題への取り組みを評価するように、また、必要に応じて、新しい優先課題を明示するよう要請する」との勧告を受けた。

「コルベンバッハ総長によって継承された優先課題」とは、2003年1月に発表されたもので、「アフリカ」「中国」「知的使徒職※1」「ローマにある多管区の共営施設※2」「移住および難民」の五つである。これらは、コルベンバッハ総長自らの言葉によれば、「祈りに基づく識別をしながら、最も大切で緊急のニーズ、普遍的なもの、イエズス会が今快く対応するように招かれているもののいくつかを見極めた選択※3」であった。

2017年10月3日、ソーサ総長は全イエズス会員に宛てて書簡を出した。その中で、現代のイエズス会が世界の現状を認識しながら、何を優先的な課題とするかを決定する作業に取り組むこと、また、それを公にするプロセスを明確に示した。総長はまず、会員ひとりひとりがイエズス会としてもっとも優先的取り組むべき課題を「識別」するように呼びかけた。そして、会員が属する共同体や従事する働きの場において話し合い、管区レベルにおいて識別する。さらには各管区連合体(アシステンティア)の管区長会議において「共同識別」を通して明確に定式化し、総長に提案するよう指示した。最終的には、全世界から寄せられた意見を総長自身が「識別」に基づいて定式化し、それを教皇に提示して、教皇からの認可を得る意向を示した。実際に、このプロセスを2年かけて行い、その結果が「イエズス会使徒職全体の方向づけ」(Universal Apostolic Preferences:UAP)として公にされたのである。

このプロセスは、実は、すでに触れたことであるが、イエズス会が創立されたとき、聖イグナチオとその同志たちが経たプロセスと同じであった。会員個人が識別し、共同で識別し、総長が取りまとめ、最終的に教皇によって直接認可されるというプロセスである。イエズス会のミッションがキリストの代理者である教皇によって認められるということは、キリストから委ねられたミッションであることを示すのである。ソーサ総長はこのプロセスを踏襲しようとしたのであった。

ソーサ総長はこの書簡のなかで、何度も”resolve”や”commit”という言葉を使っている。これは四つの項目がすべて動詞で示されていることとも関連するが、識別の結果として“preferences”として捉えることを「強く決意し」(resolve)、「責任をもって関わる」(commit)強い意志を表明しようとしたのであろう。しかも、2019年から10年という期間を定めたという点もきわめて珍しいことである。イエズス会が本気で取り組む現代のミッションとして理解しなければならない。

※1 イエズス会が創立当初から大切にしてきた学問分野に携わってきた働きのことを「知的使徒職」という。神学、哲学のみならず、数学、天文学、地理学、言語学など、海外宣教の必要性から取り組んだ学問も大事にされた。

※2 ローマにあるイエズス会の施設はイタリアのみならず、世界各地の管区の助けなしには運営できない。たとえば、グレゴリアン大学、聖書研究所、イエズス会難民サービス(JRS)などである。このような施設や共同体を今後も維持していくためには世界のイエズス会の協力が必要となる。

※3 この言葉は大切である。聖イグナチオは会員を派遣する場所や仕事を選択する規準として四つを挙げている。「普遍的な善が得られ、必要性があり、緊急性を帯びており、誰も手をつけていないこと」である。コルベンバッハ総長はこの規準を意識して五つの項目を選択した。

イエズス会教育推進センター

  • educate magic

    The global community of Jesuit and Ignatian Educators