第7回 丸山英樹先生からのメッセージとトーク・セッション
SDGs時代の教育で求められる包摂的アプローチ
丸山英樹
私は、比較国際教育学を専門とし、持続可能な社会構築に資する教育の研究をしています。持続可能な社会とは、今を生きる人と未来を生きる人のウェルビーイングと、関係する空間と自然のウェルビーイングが成立する社会です。そのための教育では、学校だけではなく様々な学びが重要になります。COVID-19感染拡大で人々のウェルビーイングは低下し、しかし自然環境のウェルビーイングは向上しているとも言われます。SDGs時代の教育は、普遍的に重要なもの、正しさと真っ当さ、矛盾する価値観の中で展開されることになります。
1. EFAからSDGsへ
1990年に国際的に合意された「すべての人に教育を(Education for All: FEA)」から30年が過ぎた今は、オシャレな持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)が頻繁に語られるようになりました。EFAによって、それまで学校などの教育へアクセスできなかった、いわゆる発展途上国の子どもたち、特に女子の教育機会が保障されたと言われます。EFAでは2つの捉え方から、教育は必要という理解が拡がりました。一つは学校を卒業した者の生産性が上がるため社会的リターンが大きくなるという捉え方で、主に経済学者たちが支持しました。他方、教育は誰もが持つ基本的人権であると見なす捉え方で、法学者や教育学者などが主張しました。
その後、SDGsでは教育を扱う第4目標が、すべての人に包摂的かつ公平な質の高い教育を保障し、生涯学習の機会を促進すると示しています。教育とは、学びを進めるプロセスまたは知識・技能・価値・信条・習慣の獲得を意味し、質の高い教育とは、技能の発展、ジェンダー平等、学校設備や教材また教えることの提供を指します。生涯学習とは生まれる前から他界するまで「いつでも・どこでも・誰でも学ぶことができる」ことを指し、その機会を増やしていこうとSDGsは謳います。
2. 教育アクセスと質の課題
さて、COVID-19によって教育に関して何が起きているか、皆さんは身をもって感じていることでしょう。そうです、日本では新学期が始まる4月というのに、公式に教育アクセスを担保できなかった学校や大学が多かったのです。今月になってから9月入学などの議論はありますが、今もっとも重要なことは、学習権の保障です。
もし「タブレット端末やスマホで授業すれば良いだけなのでは?」と思った人がいたら、それはあまりにも世界が狭いと言わざるをえません。この文章を読んでいる人なら、インターネットに自由にアクセスできるかもしれませんが、自分が自由に使える機材を持たない人もいれば、高速通信できない人もいます。それらの問題がクリアされて、アクセスは保障されたとしても、オンライン授業そのものの質はどうでしょうか。クオリティが低いYouTube動画を想像してみてください。ツマラナイ動画を5分以上も見続けることができますか。私は30秒の動画さえ苦痛です。でも、面白くない動画に触れて、改善に向けたやる気やアイデアは湧いてくるかもしれません。
「191か国で幼稚園から大学まで閉鎖されたことにより、15億人の子どもに影響が出ており、世界中では約半分の子どもたちがオンライン学習において何らかの障害に見舞われている」とUNESCOが2020年4月21日に報告しました。学校閉鎖は、社会の中で弱い立場の人たちがより脆弱な状態へと追い込む影響を与えたのです。
3. 持続可能な社会
では、何をどのようにすれば、今を生きる人たちと未来の人たちのウェルビーイングを高められるのでしょうか。COVID-19で人々が自宅滞在を続けたために大気汚染が改善されたと報道されたり、エコロジストは前から人間の活動による環境負荷を訴えてきましたので、人々が自粛すれば自然環境のウェルビーイングは向上するという話に聞こえるでしょう。そして、日本で見られたように「自粛警察」が活躍するかもしれません。
しかしながら、これまでの研究から、私たちのウェルビーイングは、身近なところから始まるように私は思います。今月から始まる上智大学のオンライン授業の質は、映像のプロ集団が作る人気番組には遠く及ばないかもしれません。それでも、今の自分ができることを考えてみると、まずは「包摂性(inclusiveness)」がウェルビーイング向上への第一歩のように思います。ツマラナイ動画の講義でも、内容だけは活用してみるなど自分なりに工夫することで、時間の無駄と終わらないでしょう。
2030年までの達成を目指すSDGsは、「誰一人も取り残さない」を念頭においており、今の状況・社会で小さき人の声に耳を傾け、自分に与えられた力を自分と他人のウェルビーイングのために使うことも重要になると思います。排除してしまえば合理的だし、気持ちも楽かもしれません。でも、それでは自分のウェルビーイングも確保できない危険性があるのです。なぜならば、あなたも相対的により力を持った他人から排除される可能性があるからです。
当日(5/14.木.16時~)のトークセッションでは、持続可能性について振り返り、様々な教育について紹介しながら、大正解よりも最適解をいかに見つけるか、選べるか、作り出すか、一緒に考えていきたいと思います。
参考情報
・質の高い教育についての動画
https://www.youtube.com/watch?v=scMho9RAeEQ
・UNESCO報告(2020年4月21日)
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000373233
・Air pollution falls by unprecedented levels in major global cities during coronavirus lockdowns
https://edition.cnn.com/2020/04/22/world/air-pollution-reduction-cities-coronavirus-intl-hnk/
・持続可能な社会づくりに向けたESD
https://twitter.com/ProfHideki/status/1256774152708476928/
丸山英樹
私は、比較国際教育学を専門とし、持続可能な社会構築に資する教育の研究をしています。持続可能な社会とは、今を生きる人と未来を生きる人のウェルビーイングと、関係する空間と自然のウェルビーイングが成立する社会です。そのための教育では、学校だけではなく様々な学びが重要になります。COVID-19感染拡大で人々のウェルビーイングは低下し、しかし自然環境のウェルビーイングは向上しているとも言われます。SDGs時代の教育は、普遍的に重要なもの、正しさと真っ当さ、矛盾する価値観の中で展開されることになります。
1. EFAからSDGsへ
1990年に国際的に合意された「すべての人に教育を(Education for All: FEA)」から30年が過ぎた今は、オシャレな持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)が頻繁に語られるようになりました。EFAによって、それまで学校などの教育へアクセスできなかった、いわゆる発展途上国の子どもたち、特に女子の教育機会が保障されたと言われます。EFAでは2つの捉え方から、教育は必要という理解が拡がりました。一つは学校を卒業した者の生産性が上がるため社会的リターンが大きくなるという捉え方で、主に経済学者たちが支持しました。他方、教育は誰もが持つ基本的人権であると見なす捉え方で、法学者や教育学者などが主張しました。
その後、SDGsでは教育を扱う第4目標が、すべての人に包摂的かつ公平な質の高い教育を保障し、生涯学習の機会を促進すると示しています。教育とは、学びを進めるプロセスまたは知識・技能・価値・信条・習慣の獲得を意味し、質の高い教育とは、技能の発展、ジェンダー平等、学校設備や教材また教えることの提供を指します。生涯学習とは生まれる前から他界するまで「いつでも・どこでも・誰でも学ぶことができる」ことを指し、その機会を増やしていこうとSDGsは謳います。
2. 教育アクセスと質の課題
さて、COVID-19によって教育に関して何が起きているか、皆さんは身をもって感じていることでしょう。そうです、日本では新学期が始まる4月というのに、公式に教育アクセスを担保できなかった学校や大学が多かったのです。今月になってから9月入学などの議論はありますが、今もっとも重要なことは、学習権の保障です。
もし「タブレット端末やスマホで授業すれば良いだけなのでは?」と思った人がいたら、それはあまりにも世界が狭いと言わざるをえません。この文章を読んでいる人なら、インターネットに自由にアクセスできるかもしれませんが、自分が自由に使える機材を持たない人もいれば、高速通信できない人もいます。それらの問題がクリアされて、アクセスは保障されたとしても、オンライン授業そのものの質はどうでしょうか。クオリティが低いYouTube動画を想像してみてください。ツマラナイ動画を5分以上も見続けることができますか。私は30秒の動画さえ苦痛です。でも、面白くない動画に触れて、改善に向けたやる気やアイデアは湧いてくるかもしれません。
「191か国で幼稚園から大学まで閉鎖されたことにより、15億人の子どもに影響が出ており、世界中では約半分の子どもたちがオンライン学習において何らかの障害に見舞われている」とUNESCOが2020年4月21日に報告しました。学校閉鎖は、社会の中で弱い立場の人たちがより脆弱な状態へと追い込む影響を与えたのです。
3. 持続可能な社会
では、何をどのようにすれば、今を生きる人たちと未来の人たちのウェルビーイングを高められるのでしょうか。COVID-19で人々が自宅滞在を続けたために大気汚染が改善されたと報道されたり、エコロジストは前から人間の活動による環境負荷を訴えてきましたので、人々が自粛すれば自然環境のウェルビーイングは向上するという話に聞こえるでしょう。そして、日本で見られたように「自粛警察」が活躍するかもしれません。
しかしながら、これまでの研究から、私たちのウェルビーイングは、身近なところから始まるように私は思います。今月から始まる上智大学のオンライン授業の質は、映像のプロ集団が作る人気番組には遠く及ばないかもしれません。それでも、今の自分ができることを考えてみると、まずは「包摂性(inclusiveness)」がウェルビーイング向上への第一歩のように思います。ツマラナイ動画の講義でも、内容だけは活用してみるなど自分なりに工夫することで、時間の無駄と終わらないでしょう。
2030年までの達成を目指すSDGsは、「誰一人も取り残さない」を念頭においており、今の状況・社会で小さき人の声に耳を傾け、自分に与えられた力を自分と他人のウェルビーイングのために使うことも重要になると思います。排除してしまえば合理的だし、気持ちも楽かもしれません。でも、それでは自分のウェルビーイングも確保できない危険性があるのです。なぜならば、あなたも相対的により力を持った他人から排除される可能性があるからです。
当日(5/14.木.16時~)のトークセッションでは、持続可能性について振り返り、様々な教育について紹介しながら、大正解よりも最適解をいかに見つけるか、選べるか、作り出すか、一緒に考えていきたいと思います。
参考情報
・質の高い教育についての動画
https://www.youtube.com/watch?v=scMho9RAeEQ
・UNESCO報告(2020年4月21日)
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000373233
・Air pollution falls by unprecedented levels in major global cities during coronavirus lockdowns
https://edition.cnn.com/2020/04/22/world/air-pollution-reduction-cities-coronavirus-intl-hnk/
・持続可能な社会づくりに向けたESD
https://twitter.com/ProfHideki/status/1256774152708476928/