調査・研究

<社会経済学班>「都市・建築からみた公共空間」研究会(2019年6月14日(金)上智大学)の報告書

2019年度報告

日 時:2019年6月14日(金)18:00~20:30
場 所:上智大学四谷キャンパス2号館6階615a会議室
テーマ:「都市・建築からみた公共空間」

第1報告
報告者:岡部明子氏(東京大学大学院新領域創成科学研究科・教授)
題 目:「制度の外に現れる公共空間」

 岡部氏は,都市・建築を専門とする立場からみた公共空間について,広場や街路のように現実に存在しているものとして扱いがちであるとし,他分野と議論するには公共空間の存在を前提とせず,いかなる条件が整えば公共空間となりうるかをまず考えるべきであると指摘した。 
 本報告では「制度(システム)の外にこそ公共空間が現れる」「風土や文化によって公共空間のかたちは異なる」とした上で,「制度のヴェールの綻びた穴に公共空間としての可能性」「インフォーマル地区事自体が都市全体にとっての公共空間としての可能性」について論ずるとした。
 まず岡部氏は,2016年ハビタット3への参画を契機としてグローバル・サウス発のグローバル・サウスのための都市論が展開される必要性を強く感じたといい,今後異次元の都市化及び公共空間の問題に直面するインドやアフリカ等の都市に対し,従来の古代ギリシャ・ローマのポリスを共通アイコンとする欧米的マインドで公共空間を論じ続けることへの疑問を呈した。
 バルセロナの公共空間の変容について,スペイン民主化以降に公共空間の整備・改善が進められた結果,質の高い公共空間を実現したが,観光の肥大化により観光公害が引き起こされ,地域住民のための公共空間が失われる事態に陥っているといい「バルセロナ・モデル」として批判されている「公共空間の危機」の事例が紹介された。
 パブリックスペースの定訳は公共空間であるが,コモン(共)を含むものが日本の「公共」空間とされている点を指摘した。さらに,東京を含むモンスーンアジアの都市では,欧米型広場よりも毛細血管のように延びる路地空間の方が心地良いとした上で,路地(コモン)がネットワーク化することにより公共空間(広場)のようなものになるとした。
 一方,概念的な考え方とした上で,キリスト教によりソサイエティ(社会)が登場し,それが肥大化することにより公と私が弱まったとし,公を装った「共」に公・私が覆われた状態が,制度の内側(システム)であるとした。さらに,ここに「穴」が開くと公共空間としての可能性が生まれ,制度に覆われたところの穴が「インフォーマル」な地区であると指摘した。
 途上国都市のインフォーマル地区の分布特性を示しながら,これらが制度に開いた「穴」であり,都市全体でみた場合に公共空間としての可能性を指摘した。さらに,岡部氏はジャカルタで実施したプロジェクトを紹介しながら,富裕層のためにできた街よりも,自然発生的にできた街(インフォーマルな街)の方が多様な社会階層に開かれた公共空間となりうる可能性があるとした。

第2報告
報告者:山田協太氏(筑波大学芸術系・准教授)
題 目:「港市コロンボ(スリランカ)歴史地区の居住環境:人,場所,ネットワークから考える」

 はじめに,山田氏から南アジア・コロンボの歴史的背景についての説明がなされ,コロンボが植民都市として発展する過程において,オランダ期には植民都市の枠組みの外に「非都市」部分が広がったこと,さらに,イギリス期には非都市部分を含めて「都市」化されていったことが示された。さらに,植民都市域がフォーマル(植民地)であり,植民地管理が及ばないインフォーマル(非植民地)な地域と共存しているとの説明があった。
 コロンボ歴史地区の宗教施設の分布(クリスチャン・ヒンドゥー・イスラム・仏教)が示された後,ムスリムの活動域に着目した説明がなされた。人々の生活を支える場所の集合体として「居住環境」は,①卸売店街(生業縁),②レーン(血縁:居住地),③モスク(信仰縁),④ティーショップ(地縁),さらに⑤ロッジ(一時縁:外来者施設)を加えた5つの場所(セット)で構成され,人々の往来によって緩やかに結びついているとした。また,レーンとは路地裏長屋が並ぶ両側町のような構成であるとし,ここがロッジ(簡易宿泊・倉庫)として建て替えられ,南インドからきた商人が一時的な生活の場となり広域経済活動を支えているとした。
 卸売店街の歴史的背景や商品分類,施設内部が細かく区画された卸売店になっている様子が紹介され,それぞれの店主が内陸地域と繋がりをもち,独自の広域ネットワークをもつ拠点であることが示された。さらに,業種社会は高い職業流動性と恒常的経路が存在し,相互の信頼関係でビジネスが成り立つ構図を示し,互いに信頼する間柄が人々の結合原理になると指摘した。
 居住地・血縁の場所であるレーンは,世代を超えた信頼関係を蓄積する単位であるとし,そのネットワークが血縁社会を形成しているとした。また,レーン内部は完全な血縁関係でなく潜在的な血縁関係者も含めて構成されている点も紹介された。その上で,人と物との関わりについての規範として,人と物との関わり(環境との関わり)を妨げてはならず,誰でもその場所を占められる,その場所に共にいることができることが「物的公共性」であるとする考えを示した。
 ティーショップは,様々な人,異なる社会が交わり,情報提供や共通認識の形成,討論の場となることから公共空間に近い存在であると指摘した。さらに,複数の居住環境の接合点となるのがティーショップの担う重要な役割の一つであり,ネットワークとしての地域社会の公の場であるとした。
 最後に,地域社会の有力者が集い食事会を催す「サワン(社交縁)」をあげ,フォーマル(近代/グローバル:軍・警察・行政・司法・政治家・企業経営者)とインフォーマル(非近代/ローカル:居住環境)の間に存在し制度との間をつなぐ存在であることが示された。
(文責:宍戸克実 鹿児島県立短期大学准教授)


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