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言語学専攻について

言語学副専攻から言語学専攻へ

上智大学における言語学研究

1はじめに

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言語科学研究科言語学専攻の専属教員と云っても、学科などと違っていったいどのような組織単位なのか、一般になじみが薄いかも知れません。言語学専攻専属教員は、上智大学に何十年にも亘って存在してきた言語学副専攻という教育および教員組織の発展形なのですが、この言語学副専攻という組織単位がやはり一般的にはなかなか理解しにくいもののようです。そこで本稿では、ごく簡単に言語学副専攻の歴史および言語学専攻への発展の経緯を説明したいと思います。幸い、この件に関しては、『25年の歩み —— 上智大学外国語学部1958—1983』(1983年発行)の中に佐野泰彦氏による「言語学副専攻」という論説が、また『上智大学外国語学部の歩み —— 1983—2008』(2008年発行)には加藤泰彦氏による「言語学副専攻の歩み」という詳細な解説があります。加藤論考は佐野論考で述べられている事柄も踏まえた内容になっていますので、以下では主に加藤論考に言及しながら——必要に応じて佐野論考も参照しつつ——言語学副専攻から言語学専攻への歩みを振り返ってみたいと思います。佐野論考および加藤論考からの引用は、それぞれ(佐野)、(加藤)と表すことにします。

2上智の言語学研究 – 人間本性の理解に向けて

上智大学外国語学部のユニークかつ先進的な特徴として知られる副専攻制度は、1969年に国際関係論と人文の2コースで始められましたが、言語学研究・教育においても同様の制度が必要であるとの関係教員の合意により、1973年に言語学副専攻がスタートしました。言語学副専攻開始の一つの契機は「外国語学部では語学のみを教えるのに急で人間形成のための学問が欠けているという学内外からの強い批判に対応する」(佐野、101頁:強調は引用者)というものでした。さらに、1970年に開設されていた大学院言語学専攻を「学部レベルで支えるべく、いわば言語学科に相応するプログラムが、当時の文部省対策としてもまた専門教育の面においても、必要とされた」(加藤、84頁:強調は引用者)という直接的な理由もありました。その後、1978年に国際言語情報研究所(SOLIFIC)が開設され、大学院と副専攻が有機的に関わりながら各語学科教員と協働して研究・教育を行なうという、本学における言語学の研究・教育体制が基本的に整いました。大学院言語学専攻、国際言語情報研究所、および言語学副専攻の発足に当たっては、フェリス・ロボ教授、ジョン・ニッセル教授、および佐野泰彦教授(肩書きは全て当時のもの)の貢献が非常に大きかったということです。

言語学副専攻の理念については、(加藤)に引用されている「上智大学自己点検・評価報告」(2007年)に簡潔にまとめられていますので、以下に引用します。

“[言語学副専攻においては] 学生は所属学科で習得した専攻外国語についての知識および運用能力を基礎として、人間言語とそれをとりまく諸問題を研究対象とする科学の一分野としての言語学の基礎を学ぶことになる。このプログラムを支える教育理念・目的は、第一に人間言語の一般的な特性への理解を深め、それを通して人間性の本質への知見を広めること。その上にたって、言語研究の専門分野へ進む人材、または言語学の基礎を学ぶことによって与えられる分析力、論理的思考力および自らの文化・社会を対象化し客観的に捉える観点をもって社会の各方面で活躍しうる人材を養成することである。[副専攻専属] 教員はすべて言語学専攻大学院と兼任しており、高度の専門的立場からの基礎教育を重視している。(加藤、84頁)„

3言語学副専攻専属教員の配置

  • 教授ネームプレート
  • 言語学書籍
  • 言語学書籍2

教員組織としての言語学副専攻は、当初、専属の教員も運営組織も持たず、いわば学部全体の総意と言語学関係の教員の積極的な協力のみによって始まりましたが、その後、1986年に英語学科から太田朗教授そして金田一春彦教授が移籍し、言語学副専攻専属の教員となります。さらに、1985年にクロード・ロベルジュ教授等の尽力により言語障害研究コース(現・言語聴覚研究コース)が大学院に設置されたことに伴い、1996年には飯高京子教授が専属教授として加わり、2002年に平井沢子専任講師が着任したことにより4人体制になりました(肩書きは全て当時のもの)。加えて、2006年には言語学専攻大学院にTESOL(英語教授法)コースが設置され、それに伴って渡部良典教授が言語学副専攻専属教員に加わり現在の5人体制が出来上がりました。副専攻発足当初の太田教授および金田一教授のポジションについては、その後、太田教授のポジションは梶田優名誉教授に引き継がれたあと、現在は本稿筆者(福井)が受け継いでいます。金田一教授のポジションは、森岡健二教授を経由して加藤泰彦名誉教授が引き継ぎ、現在は加藤孝臣准教授が就いています。飯高教授のポジションは、進藤美津子名誉教授が引き継いだのち、現在は吉畑博代教授が就いています。平井講師の後任には、現在の原惠子准教授が就任しました。

4言語学副専攻の教育理念 – 学部の枠を超えて全学に開かれた言語研究

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言語学副専攻の教育理念についてひとつ非常に重要な点は、言語は「人間本性」(human nature)とでも云うべきものの中核を成すという学問的認識のもと、外国語学部にとってだけではなく、人間性教育を掲げる本学全体にとって言語研究はまさに本質的な重要性を持つという教育的主張でしょう。「現代言語学が明らかにしてきたように、言語を自由に司る心的機能はわれわれ人間だけがもつものであり、その解明なくしては真の人間性の理解はあり得ない。この意味で言語研究は、哲学、神学、心理学、情報工学など、本学全体に分散する人間研究のすべての分野、そして広く人間性教育の必須の基礎となるものである。」(加藤、85頁)という教育理念の中核に係わる認識は、副専攻発足当時から現在に到るまで全く変わっていません。副専攻制度が(制度上は外国語学部内に置かれながら)全学の学生に等しく開かれてきたということが、この教育理念の実現に過去何十年間に亘って大きく寄与してきたことを記憶および記録に留めたいと思います。事実、言語学副専攻科目を履修し、言語学履修証明を取得した学生は、理工学部、教育学部、文学部、等々、外国語学部以外の学部出身者を数多く含んでいます。

5言語学副専攻から大学院言語学専攻へ

その後、2014年に大きな外国語学部改革があり、3つあった副専攻の2つ(国際関係副専攻、アジア文化副専攻)が新たに総合グローバル学部を作りそこに移行したことと期を同じくして、教員組織としての言語学副専攻は大学院外国語学研究科言語学専攻に移りました(2014年4月)。大学院言語学専攻に専属教員が配置されたのはこれが初めてでした。この移籍は、上で述べたように、元々、言語学副専攻という組織が大学院言語学専攻を(当時は大学院専属教員という身分が文部省によって認められていなかったため)学部レベルで支える組織として構想されたことを考えると、極めて自然な異動だったと思われます。同時に、大学院言語学専攻が拡大を続け、現在では本来の一般言語学に加えて、言語聴覚、TESOL、日本語教育のコースを抱える規模になり、大学院の運営および教育活動に学部所属のままで携わることが徐々に困難になってきた事情もあります。その後、外国語学研究科は2016年4月より言語科学研究科と名称を改め、現在に到っています。

以上が外国語学部言語学副専攻から言語科学研究科言語学専攻に到る長い歴史の概略です。

2018年1月末日
福井直樹

(本稿執筆にあたり、事実の詳細について加藤泰彦名誉教授に慎重にチェックしていただきました。ここに記して感謝します。)

教員紹介

  • 福井 直樹教授

    Naoki FukuiProfessor

    詳細

    専門

    理論言語学、認知科学 特に統辞法研究、言語基礎論(言語学の哲学)、言語脳科学、等

    略歴

    マサチューセッツ工科大学(MIT)言語学・哲学科博士課程修了、Ph.D. ペンシルベニア大学言語学科助教授、カリフォルニア大学アーバイン校言語学科教授等を経て現職

    担当科目

    大学院:統辞論基礎、理論言語学C、現代言語学諸問題B、文法理論演習、等
    学部:言語と人間Ⅰ、文法論1・2、演習(文法論・意味論)1・2、等

  • 原 惠子准教授

    Keiko HaraAssociate Professor

    詳細

    専門

    言語聴覚障害学。小児の言語・コミュニケーション障害、特に、発達性ディスレクシアの研究。

    略歴

    上智大学外国語学研究科言語聴覚研究コース博士前期課程修了後、上智大学外国語学研究科非常勤講師等を経て現職。

    担当科目

    大学院:言語聴覚障害学特論、言語発達障害学演習A・B、コミュニケーション障害分析法B
    (治療診断学・小児)、コミュニケーション科学研究法B、言語聴覚学特論B(小児のコミュ二ケ―ション障害)
    学部:言語聴覚障害学概論、言語聴覚障害学特殊講義B(言語発達遅滞)、演習(言語聴覚障害学)1・2

  • 加藤 孝臣准教授

    Takaomi KatoAssociate Professor

    詳細

    専門

    理論言語学、特に生成文法理論に基づく人間言語の統辞法および統辞法と意味のインターフェイスの研究

    略歴

    ハーバード大学言語学科博士課程修了。Ph.D. (Linguistics)。日本学術振興会特別研究員(PD)、東京理科大学講師等を経て現職

    担当科目

    大学院:理論言語学B、日本語言語学A、現代言語学諸問題C、意味論基礎
    学部:言語学概論1・2、日本語学概説1・2、意味論1・2、演習(日本語学)1・2、言語と人間Ⅰ

  • 渡部 良典教授

    Yoshinori WatanabeProfessor

    詳細

    専門

    応用言語学、言語教育評価、授業研究

    略歴

    [教育歴]英国ランカスター大学博士課程修了 Ph.D.[職歴]国際基督教大学、秋田大学

    担当科目

    大学院:Action Research、Research Design and Statistics(実験統計法)、Language Testing(言語テスティング)、Curriculum and Syllabus Design、Reading and Writing、Introduction to TEFL in Japan、Classroom Research
    学部:演習(外国語教育学研究)1・2、応用言語研究入門1・2、英語科教育法A、言語と人間II

  • 吉畑 博代教授

    Hiroyo YoshihataProfessor

    詳細

    専門

    言語聴覚障害学(成人)、特に失語症者への拡大代替コミュニケーション(AAC)に関する研究および心理言語学的変数を統制した失語症検査の開発

    略歴

    筑波大学大学院教育学研究科修了後、広島大学にて博士(心理学)取得、県立広島大学コミュニケーション障害学科等を経て現職

    担当科目

    大学院:失語・高次脳機能障害学特論A・B、高次脳機能障害学演習A・B、言語聴覚障害研究法B、コミュニケーション科学研究法A、言語聴覚学特論A、コミュニケーション障害分析法
    学部:演習(言語聴覚障害学)1・2、言語聴覚障害学概論、言語聴覚障害学特殊講義A(失語症)、言語と人間Ⅰ、福祉情報学、認知症の理解A(社会福祉専門課程)