日仏の若者の結婚観

牧 陽子

初めまして。4月に着任した新任の牧陽子です。フランス語学科で教壇に立って2か月余りが過ぎました。

担当している2年生必修の 「フランス語圏研究C(社会と経済)」で先日、フランス語圏からの留学生を招いて、日本人学生と結婚観について意見交換してもらう機会を作りました。現代 フランスの社会変動や社会問題が授業のテーマであり、その一つに「家族の変容」があるからです。

フランスでは2007年に、結婚していな いカップルや女性から生まれる、いわゆる「婚外子」の数が、結婚した夫婦から生まれる子供数を超しました。「婚外子」の割合は1980年代から増え続け、 2015年には58%に達しています。日本の新聞等でも紹介されているためか、「フランスは婚外子が多い」ということを知っている人は、日本でも行政の関 係者や知識人にけっこういます。ただ、日本では「婚外子」=「私生児」「非嫡出子」というイメージが強いためか、眉をひそめる人が多いのです。

実 際には、こうした「婚外子」たちの多くは事実婚や、連帯民事契約(PACS)という結婚に準じた制度を選ぶカップルの間で生まれており、そのほとんどが出 生後、すぐに父親に認知されています。子どもが生まれた後、事実婚からPACSへ、またPACSから結婚へと移行するカップルもいます。制度として「結 婚」を選んでいないだけで、決して望まれない出生や、不義の子どもたちではないのですが、日本では「家族形成=結婚」という考えが根強いだけに、こうした カップルのあり方がなかなか理解されません。

フランスの婚外子数の推移

フランスの婚外子数の推移

フランス語学科の学生たちには、こうした誤解をしてほしくないと思い、フランスや他のフランス語圏の若者に直接、なぜ結婚しないのかについて説明し てもらうのが趣旨でした。学内の留学生受け入れ部署を通じて呼びかけたところ、フランス人5人、スイス人2人の計7人が応じてくれました。

さて、「結婚についてどう思いますか?」という日本人学生の質問に対する、彼・彼女らの返答は…。

「結婚は自分にとっては古い制度だから」

「結婚には役所での儀式と教会での儀式の二つがあるけれど、やっぱり宗教と結びつい

て感じられるから」

「相手にもよるけど、結婚が最終的なゴールではない」

など。特に「古い制度」だという意見が大勢を占めました。「お祝いをしてもらう機会になるから、結婚してもいい」という声もあり、絶対に結婚したくない、というわけではないようです。

授 業ではフランス語圏留学生から、日本人学生に逆質問もしてもらいました。フランス人留学生が最もびっくりしていたのは…、一部の女子学生の専業主婦志望で す。「専業主婦になりたいの!?」と何度も首をかしげていました。それもそのはず、フランスでは1970年代の女性解放運動や女性の社会進出を経て、今で は専業主婦の地位は地に落ちたといってもいいからです。仕事を辞めるのは大抵、子育てと仕事の両立が難しくてやむを得ない場合で、それも末っ子が幼稚園に 入ると普通、働き始めます。仕事は男性と同様、女性の生きがいとアイデンティティの一部になっていると言っていいでしょう。労働時間が短いこと、正規職員 の短時間勤務制度が普及していることなどもあり、仕事と育児は両立できるものと考えられているのです。そのために「走り回っている」という声も、特にキャ リアを追求する女性たちからは聞こえますが…。

近頃の女子学生は何を望んでいるのか=キャンパス内にて

近頃の女子学生は何を望んでいるのか=キャンパス内にて

 

こうした学生たちのやりとりは、私にとっても非常に有意義なものになりました。私が学部を卒業してからすでに20年余。今の日本の若い女性はどんな 境遇にあり、何を望んでいるのか、かねてから知りたかったからです。結論としては、「あまり変わってないな」というのが正直な実感です。日本の学生にとっ て、やはり結婚は家族形成になくてはならないものであり、そこに専業主婦の存在を夢見る学生もいるのです。「イクメン」や「弁当男子」のブームなど、若 干、男性の家事・育児参加は進んだかに見えますが、性別に基づく役割分業意識という点では、大きな変化は感じられません。企業もしかりで、就活中の女子学 生たちによると、どの企業も「女性が働きやすい環境」を女子にはアピールするそうです。しかしそうしたアピール自体に、男女が平等でない実態を鋭く感じ 取っている学生もいます。

五月革命、女性解放運動など、1960-70年代の社会変動を経て大きく変貌を遂げたフランス。一方、性別役割分業が依然として支配的な日本。この変わらなさは何なのだろう。謎は深まるばかりです。