自国を知るチャンス    

森谷 誠司

私は現在、交換留学生としてパリ第十大学に通っています。パリ第十大学は、ナンテールというパリの中心地から電車で20分ほどのパリ郊外にある総合大学です。私は法学部に在籍し、主に政治分野の科目を受講しています。

私は上智では「比較政治学」を専門として学んでいます。様々な国の政治を比較する学問です。「政治」といってもその中身は幅広いため、何を具体的に比較するのかはその人の興味、関心によって変わってきます。私の比較対象は簡単に言うと「日本の政治」と「フランスの政治」です。留学に来た理由の一つはその「フランスの政治」をより良く知るためです。とは言うものの、個人的な関心の最後に行き着くところは「日本の政治」です。「日本の政治」について良く知るために比較をしています。日本国内で、日本語で日本の政治だけを見ていては、本当の「日本の政治」はわからないと考えています。そのためフランスでフランスの政治を見て、またフランス語を通して日本の政治を見ることで、つまり日本の政治を相対化して見ることで「日本の政治」について考えようというものです。

前置きが少し長くなりましたが、ここでは、実際にフランスに一定期間暮らしてみて感じたことを自分の関心に繋げて書いてみたいと思います。

声をあげる文化

こちらで生活してみてより強く感じるフランス人の特徴は何といっても、「声をあげること」です。不満や、表明したいことがあれば道に出て声をあげるということがよく行われます。つまり、デモ・ストライキが頻繁に行われるということです。大きなものであれば、ここ一ヶ月の間にフランスの公共ラジオ放送局ラジオ・フランス、パリのオペラ座、フランス航空管制官によるストライキが行われていました。デモ行進も、毎日のように至るところで行われています。ストライキは労働者が行うものですから、その労働の恩恵にあずかるはずのお客さんにはもちろん迷惑がかかります。デモによって、大きな交通規制が敷かれることも珍しくありません。それでも、そのストライキやデモが頻繁に起こるのです。

不満や何か表明したいことがあればそれを表明する土壌が整っているという意味でフランス文化を羨ましく思うか、多くの人に迷惑をかけるという意味でそれを許せないと思うか、その判断はこのブログを読んでいる人に委ねたいと思います。

しかし、政治という場面にこの文化を当てはめてみると、こういった国民性が、政治家にとっては一種のプレッシャーとなるのではないでしょうか。常に、国民の監視、意識の下で政治を行わなくてはいけなくなります。それが、政治を堕落させないために必要だと思います。日本人は秩序を大事にする(しすぎる)傾向にある気がしますが、果たしてそれが良いのか悪いのか、色々考えることが必要な気がします。

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写真1:2015年1月7日に起きたシャルリ・エブド襲撃事件を受けて、その数日後に行われたデモ行進。この事件、デモに関しては色々な議論がありますが、フランス全土で370万人が街へ繰り出しました。

議論・批判的検討をするということ

私はこちらでできた友達とよく議論をします。議論といっても、相手を負かすとかそういうことではありません。相手の国に関して気になることを質問してみたり、逆に質問をされたり、互いの考えを話したりといった感じです。「フランス人は道端、カフェ、食卓とあらゆるところで議論をしている」なんてイメージを持ったことはありませんか。確かに日本と比べると、いろいろなところで議論をしています。テーマは色々ですが、政治や社会に関する話をしていることが多い気がします。自分が興味を持っている話だから、耳によく入ってくるだけかもしれません。

留学をする目的の一つが「日本を相対化して考える」ことだと最初に書きました。そのために日頃から様々な考え方に触れようと心がけています。議論はそういった意味で、とても有益です。日本で未だに議論の俎上に載っていない問題に気づくことも多くあります。

相手の話を聞くこと、それはその考え方を全て良いものとして受け入れるということではありません。例えばフランスについてですが、フランスが生み出している問題、フランスが抱える矛盾なども当然あります。それらに対しては、批判的になるべきです。フランス人の考え方に引っかかった時には、それを相手にぶつけてみたりもします。

日本では、議論や批判的検討する環境があまりないように思います。大学の授業でもそうですが、日常生活の中においても同じです。考えることなくして、批判なくして、成長なし!とこちらで強く感じています。

 もちろん、毎日授業を受け、議論をして過ごしているわけではありません。パリの街へ繰り出したり、パリを出て旅行をしたりと、色々な経験をこちらでしています。

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写真2:フランス南西部、カルカッソンヌへ行った時の写真。城塞都市があり、その前で記念撮影したものです。「カルカッソンヌを見ずして死ぬな」という言葉があるらしい。他にも死ぬまでに見るべきものはたくさんあるはず。留学中、観光もたくさんしようと決めました。

留学の目的は人それぞれだと思います。しかし、せっかく日本の外に出て行くのであれば、その国の中だけで生きるのではなく、その国から日本にも目をむけてほしいです。日本について色々と気づくことがあるはずです。