多言語国家スイスの中で

山本将寛

 フランス語圏に留学したい!そう思っている方の大半はフランス留学をまず考えるのではないでしょうか。私がなぜフランスではなくスイスを選んだのか。まず、スイスの公用語は4つ。単一言語国家である日本、あるいはフランスでは学び得ないことが身をもってして体験できる。そして言語学を上智大学で学んでいた私にとって言語学の父、フェルディナン・ド・ソシュールが生まれ、育ち、教鞭をとっていたジュネーヴといういわば言語学の「聖地」で学びを深められることほど魅惑的な選択肢は他になかったのです。

 とはいえ公用語はカントンによって異なるため、ジュネーヴ州ではフランス語のみが公用語。ドイツ語やイタリア語が必要なシーンは全くないので、言語面での心配はありません。しかしさすがは国際都市。英語が話せるのは当たり前ですが、学校教育でドイツ語も学んでいるため、最低3言語に馴染みがあるというのがスイス人。実のところスイスには“純”スイス人がほとんどいないため、親御さんがフランス語話者ではない場合が多々あります。上述した3言語に加え、スペイン語、イタリア語などをも操る方はたくさんいます。そしてなんとジュネーヴ大学には日本語学科があり、タンデムという“言語交換”制度があるのです。簡単に言えば、互いの母語(あるいは母語レベルの言語)を教え合う、課外授業のようなものです。日本語学科がある以上、日本語を母語とする方であれば必然的に需要があるので、簡単にタンデムの相手を見つけることができます。また、ジュネーヴ大学ではタンデムを見つけるためのサイトが整っているため、サイトに登録してもよし。あるいは友達と口約束で始めてもよし。私は複数の友人とタンデムをしており、もちろん私が教える言語は日本語ですが、私自身はフランス語とイタリア語を学んでおり、ドイツ語も始めようというところです。スイスならではの贅沢ですね。

 さて、みなさんが気になるであろうジュネーヴのフランス語の実態。いくらフランス語圏とは言え、ジュネーヴのフランス語はフランスのフランス語とは違うんじゃないのかな、と思う方もいるかと思います。私がこの地に着いた時にまず驚いたのが、ほとんど訛りがないということです。つまり上智大学ではいわゆるパリのフランス語を中心に学びますが、語彙レベルでの多少の違いを除き、フランス語を外国語として学ぶものとして発音的差異で苦労することは無に等しいです。強いて言うならジュネーヴのフランス語はゆっくりであるということ。よく言えばより“上品”なフランス語なのです。勝手な形容ではありますが、個人的にとても聴き心地の良いフランス語です。

 言語面での話が続きましたが、私のこちらでの所属は言語学科。またまた言語の話になってしまいますが、こちらでの授業について。私は主に一般言語学、社会言語学の授業を取っております。一般言語学の授業ではソシュールの甥の息子にあたる方に教えていただいておりますが、やはり本で学ぶのと、ご家族の方に教えていただくのとでは言わずもがな雲泥の差です。一方、社会言語学では、例えばフランス語という言語とフランス、スイス、ベルギーなどの政治との関係、などを学んでおり、言語に対してより多角的な視点が持てるようになったかなと。このことはジュネーヴという国際都市で学んでいることが大きいのかもしれません。しかしながらこれらは全てフランス語で行われている授業。当然ながら予習復習は終わりがありません。これはどこの大学に行っても同じでしょうが、自分のやりたいことに毎日追われるというのも楽しいですよ。それから日本語学科の授業にちょっとしたアシスタントとして参加なんかもして、日本語の難しさに改めて気付かされております。

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レマン湖の噴水

 勉強の話ばかりしていてもつまらないので、少し私の日常について。一般的に留学生は寮に住む場合が多いですが、私は家にいるときもフランス語を使いたかったため、いわばホームステイのような形で部屋貸しをしているおばあちゃんと、それから別の寝室を借りているスイス人の男の子と3人で暮らしています。おかげで毎日フランス語漬け。最高ですね。ジュネーヴ中心地のすぐそばのレマン湖のほとりにお家があるので、100万ドルの夜景ならぬ100万スイスフランの夜景?を窓から眺望することが毎日の安らぎです。大学ではシネクラブという映画上映を運営する大学公式の団体に所属していて、毎週みんなで映画を観て語り合ったり、監督を実際にお呼びして一緒に討論したり。映画館行き放題のカードも購入したので、時間があるときは映画館へ。日々映画に浸っています。それから先日、大学のキャンパスの落成式で日本語学科のみんなとソーラン節なんかも踊っちゃいました。国連で行われた拉致問題に関する会議に参加する機会にも恵まれたり。それからそれから、、、と話はつきないのでこの辺で。

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落成式にて日本語学科の学生とソーラン節

 留学だって10人10色。大事なのは「留学」に飲まれず、留学を「自分色に染める」ことだと思います。私も残り半年、やりたいことには貪欲に、精進して参ります。