吸収と主張、「心から学ぶ」ストラスブール留学

武井 遥

 フランス北東部の街、ストラスブールへ交換留学に来て3カ月が経とうとしています。留学先には悩みましたが、ストラスブールは治安もよく落ち着いた雰囲気 で、所々にコロンバージュ様式と呼ばれる木組みの家々が並び、蚤の市など様々な小さなイベントが頻繁に行なわれるなど、沢山の魅力を凝縮している街です。トラムや自転車で20分から30分走るともうドイツに入ります。歴史上ではこの地方全体がドイツ領だった時期もあり、ドイツ語に少し似たアルザス語が存在し、習慣や文化もドイツに似ているなど、国境近くならではの特徴も見られます。

ストラスブールの街並み。中心部は川に囲まれ、観光船が行き交います。

ストラスブールの街並み。中心部は川に囲まれ、観光船が行き交います。

 ストラスブールの街は、大抵の場所へは徒歩でも移動できる大きさですし、自転車用のレーンがほとんどの道に整備されていて、自転車での移動も容易です。また、ストラスブールの交通会社CTSの定期券を買っておけば、トラムとバスが乗り放題になるので雨の日などに便利です。この定期を購入する際、奨学生には日本の奨学金でも割引があります。

 ストラスブール大学での交換留学
 ストラスブール大学で私は社会科学学部に所属し、文化人類学を中心に勉強しています。けれども、授業は交換留学生であれば他学科のものでも自由に取ることができます(ただし、制限がある場合もあります)。例えば私は、東西文化の交流とその混合について興味があり、日本では、アジアとヨーロッパの布デザイン の交流をテーマとして学んでいたので、文化人類学の授業で東西の人々の交流について学ぶのと同時に、芸術学部の布デザインの授業も履修しました。この芸術 学部の授業では、講義を参考にして実際に自分でデザインを考え、そのデッサンを課題として提出します。規模が大きく、専攻の幅も広い大学ですから、様々な学科の授業を組み合わせて自分の学びたいテーマに合わせられることが、ストラスブール大学の良さであると思います。
 また、ここの交換留学 では基本的に、学部生として現地の学生と一緒にフランス語で行われる授業を履修することになります。それに加えて、週1コマはFLE(Français langue étrangère外国語としてのフランス語)という、外国人学生のためのフランス語学習の授業を取ることができます。FLEの教室には文法や発音などの 教材がたくさんあり、授業では自主学習の時間に加え、フランス語の記事を要約して発表したり作文を書いたりして、先生に添削してもらいます。
 ほかの学生との交流の場も沢山設けられています。留学前でもサイトで登録できるbuddy system では、バディーとなった現地学生と交流でき、困ったことがあれば現地での手続きなどをお手伝いしてくることになっています。(ただしバディーが見つかるのに時間 がかかる場合もあり、私はこちらで登録したのですがまだバディーと連絡がとれていません)。また、お互いの勉強したい言語を話せる相手を見つけ、連絡を取り合うTandemという現地で登録する制度もあります。授業でも、少人数やグループ活動のものは、特に友達ができる機会になります。その他、異文化交流 のサークルや交流イベントに参加することもできます。

自分がどれだけ吸収できるか
 
日本で待ち焦がれていた留学生活が現実となり、段々とこちらの生活にも慣れてきました。しかし、3カ月が過ぎて私が今改めて思うことは、今や日常となった この生活の中で、どれだけ特別な気持ちと視点を持って過ごせるかということです。私は留学中にしかできないことは、「心から学ぶ」ことだと思っています。 もちろん日本にいてもインターネットや本で学べることはたくさんあります。しかし、留学してみると、日頃の些細なことに感動して楽しくなったり、簡単そうなことが難しくて悔しくなったりして、そのような様々な感情の動きから、多くのことを学んでいるように思います。ただし、自分の心の動きから学ぶには、自分が何を見ようとし、それをどう考えるかを意識していなければならないと自覚しています。今になって、日本でも同じような姿勢を持っていれば、もっと気づけることがあったのではないかとも感じます。留学を考えている方は、ぜひ日本でも、日常の小さなことにも興味を持ち、時には書き留めたりしておく習慣をつけてください。きっと外国で暮らす時に、面白い発見が増えることになるでしょう。

フランス一美しいとされている高校。毎年、«Journées du Patrimoine(文化遺産の日)»に見学ができ、美術史科の生徒がガイドとなって、建築や歴史を説明してくれます。

フランス一美しいとされている高校。毎年«Journées du Patrimoine(文化遺産の日)»に見学ができ、美術史科の生徒がガイドとなって、建築や歴史を説明してくれます。

気になったら主張してみる
 
すでに多くの留学生が指摘していると思いますが、こちらでの生活では、特に手続きなどで苦労することがあ ります。例えば、ストラスブールで一番苦労したのが大学の履修登録でした。ストラスブール大学の交換留学生の履修登録は紙媒体で、期限までに自分の学部の担当教授に直接提出します。しかし、留学生の履修規定が曖昧であったり、教えてもらった事務所が間違っていたり、先生からのメールの返信がすぐには届か ず、何日も待たなければならなかったこともありました。
 特に、他学部の授業を履修するために担当教授のサインをもらおうとした時には、最初はメールで、予備知識がある人でなければ無理だと言われ、落胆しました。しかし直接会って、一年生用の導入の授業であることや、その学部に交換留学する学生にそのような制限がないことを主張した結果、「それもそうだね」と意外にあっさり履修を認めてもらえました。気になったことは本当にとにかく主張してみると、そんなこともあるのか!と思うような結果になることがあります。
 そのほか、友だちとの会話でわからなかった単語や、レストランでおいしかったソーセージの名前、蚤の市でよくある何に使うかわからない古そうなもの…何でも聞いてみて、お願いしてみて、きっと損はありません。そうした経験のお蔭で自信がつき、達成感を得て、心から嬉しくなって、喜びと共に学べることが沢山あります。

電車で約1時間の郊外、一面のブドウ畑。ストラスブールはアルザスワインの主な産地の一つです。

電車で約1時間の郊外、一面のブドウ畑。ストラスブールはアルザスワインの主な産地の一つです。

 留学は、もちろんフランス語力を向上させ、学習面で成長する機会ですが、多くの感動を日常生活の中で得られる経験でもあります。けれども私の場合、日本にいる時と大きく変わったのは、生活自体よりもむしろ、自分の周りに対する心のあり方であるように思います。残りの留学生活も、帰国後も、心の余裕と何事にも飛び込む勇気を持って、いつでも特別な気持ちで学び続けたいと、強く思うようになった3カ月でした。