パリに時間旅行

赤木 美月

 帰国して4か月。留学中に聞いていた曲を流しながら、東京の部屋で一人、フランス旅行を楽しんでいます。今日は皆さんもご一緒に。マドレーヌでも片手に、私の時間旅行にお付き合いください。 

  2017年8月に渡仏してからの一年間を、パリカトリック学院付属の語学学校ILCFで過ごしました。フランス語の授業に加えて様々な授業が開講されているのがこの学校の魅力です。私も文学史やモード、映画の授業を受けていました。ここではまず、美術史履修者の中で希望者のみが参加するイベントであるLes jeunes ont la paroleからお話を進めたいと思います。 

 Les jeunes ont la parole 

 直訳すると「若者たちが発言をする。」これは、ルーヴル美術館の開館時間延長日に、パリの学生が来館者に作品を説明するというイベントの名前です。私も拙いフランス語で発言してきました。 

 私の学校では、割り当てられた一つの作品を一人またはペアで2か月間勉強します。その間、美術史の先生やフランス語の先生の手厚いサポートを受けながら本番に向けて練習を重ねていきます。渡仏後、初めての美術史の授業で先生がこのイベントの告知をなさいました。周りが参加の意思を固める中、興味はあるけれど一歩を踏み出せない私は決断までに一週間いただくことになりました。イベントの参加に胸を躍らせたクラスメートが「分かんないけどやってみようよ」と誘ってくれた帰り道を今も鮮明に覚えています。躊躇が好奇心に負けた瞬間でした。絵画に関して知識はありませんでしたが、このようにしてルーヴル美術館でのイベントに参加する運びとなりました。 

 実は準備期間中、何度も断念したくなりました。拙い喋りで知らない人に、たった2ヶ月前に出会った絵について話さなければいけない。「人前で話すときは完璧でなければならない」という自分の理想も重荷になり、逃げ出したいと思ったのです。情けない話、最終日の最後の最後まで、この不安は消えませんでした。 

 ただ、全日程を無事に終えてからの達成感は今でも忘れられません。あんなに怖がっていた私ですが、本番話している間はしっかりと楽しむことができました。 

 やってみたいと思ったことを行動に移すこと。出来るか分からないけどやってみたいことに一歩踏み出してみたのは、もしかしたら「留学」というフランスにいる理由があったからかもしれません。ただでさえ日本とは「当たり前」が少し違います。もしかしたら何もしなくても刺激的かもしれません。しかし、観光客ではなく留学生としてパリにいることが、新しいことに挑戦してみることを後押ししたことは間違いありません。不安と同時に楽しさを感じられるあの感覚は、「分かんないけどやってみる」ことがあってこそだと思います!

私が担当した、新古典主義の画家、フランソワ=エドゥアール・ピコの『アモルとプシュケ』。ダヴィッドのナポレオンの戴冠の絵の向かい側に展示されています。

私が担当した、新古典主義の画家、フランソワ=エドゥアール・ピコの『アモルとプシュケ』。ダヴィッドのナポレオンの戴冠の絵の向かい側に展示されています。

芸術の都 

 美術がすぐそばにある、なんとも贅沢な一年でした。日々の生活の中でも、足を運んだ美術展や気になっている美術館はよく話題に登場しましたし、美術館ではみんなが絵を見ながら意見を交換しています。静かに鑑賞したい方はうるさいと感じるかもしれません。ただ、私は人と美術館に行くのが好きになりました。友人と一つの絵を見て、同じものを連想することも、全く違うものを連想することもあります。それを、その絵の前で共有する。その場で人数分の視点を持って作品に向き合うことができます。美術史の授業ではルーヴル美術館やオルセー美術館に行き、本物の絵の前で授業を受けることもありました。そんな素晴らしい環境で、芸術について考えられたことを幸せに思います。 

 ただ、寒い時期に哲学的な問いに関心が向くのは何故なのでしょう?冬の間、パリは本当に灰色でした。灰色の建物に灰色の空、そして灰色のセーヌ川。そんな中で芸術について考えていると、人間のつくり出したものが息苦しく感じられることもありました。美術館ではいつかの誰かに評価された絵や彫刻にたくさん触れることができます。それと同時に評価を得られず埋もれていった作品もあるはずです。普段自分にインスピレーションを与えてくれる作品たちも選び抜かれたものだと考えると、自分の美しさの基準が分からなくなってしまいました。その答えは今も変わらず分かりません。それでも心惹かれる芸術に、パリで出会えたことを嬉しく思っています。

ノートルダム大聖堂の屋上から見下ろしたパリ。ガーゴイルは何を想っているのでしょう?

ノートルダム大聖堂の屋上から見下ろしたパリ。ガーゴイルは何を想っているのでしょう?

 

なんでフランス語を学んでいるの? 

 留学生同士の定番の質問です。私の周りには、しっかりとこれに答えられる人が大勢いました。映画を学びたい、医学部に入りたい、ビジネスをしたい、美術を学びたい、などそれぞれにやりたいことがありました。みんなそれを叶えるための通過点としてフランス語を学んでいます。出自も国籍も背負ってる文化も違いましたが努力をしている人たちでした。そんな仲間ができたことは、この留学一番の宝です。 

 

 さて、私のパリ旅行もそろそろおしまいです。皆さんがそれぞれの生活に戻るまでがこの旅です!何か少しでもお土産に持ち帰っていただけるものがあれば幸いです。

 

ILCF (Institut de Langue et de Culture Françaises)

Musée du Louvre: Les jeunes ont la parole

Musée du Louvre: Les jeunes ont la parole 2018