パリでの留学生活

水野怜美

 「留学をしたい」と考え始めるきっかけは人それぞれだと思いますが、私は幼い頃から美術館やコンサートに行くことが好きで、そのような芸術がより身近であると聞いていたパリに住んでみたい、というただそれだけの理由でした。この夢は小学生の頃から持っていましたが、いざフランス語を学べる大学へ進学し回りを見てみると、移民問題や宗教に興味がある、外交官の仕事に興味があるなど具体的な志を持った友人が多く、私はこんな理由でフランス語を勉強して留学を目指してもいいのかと恥ずかしく思ったことも何度かあります。ただ、その夢に対する気持ちは強かったので、結局周りは気にせず留学の夢も諦めませんでした。

  私は現在、パリカトリック大学に交換留学しています。立地で言うとパリの中心地に位置し、歩いてサンジェルマンデプレというかつては文化の中心地として芸術家たちが集っていた界隈に行けるところにあります。この大学には教育、文学、哲学、社会科学と経済、神学と宗教学、そして教会法の6つの学科があり、すぐ隣には語学センターも併設されています。街の中心地にあるため敷地はそれほど大きくはないですが、カトリック大学とだけあって、立派で美しい教会が敷地内にあります。語学センターでは学生から働いている人まで様々な年齢層の人が学んでいて日本人も多いですが、大学の方に留学している学生の中で日本人は私を含め上智から3人だけ、私たち以外のアジア人も少数で、ほとんどがエラスムスプログラムで学びに来ているヨーロッパの国々の学生です。なので、日本から来たと言うとよくそんな遠いところから来たねとか、自分だったら勇気出ないわとか言われるし、日本に興味ありますという学生に出会うことはまずありません。そのような環境では最初は少し寂しくも感じましたが、逆に日本について何も知らない彼らに日本での話をすると、とても驚かれてそれに自分も驚いたり、絶対にフランス語で話さなければという気持ちに常にさせられるので、恵まれた環境であると今は思います。

  前期は語学センターの授業を受講し、後期に大学の学部での授業を取るという形にしました。今は3月上旬、学部での講義が始まって一ヶ月程経ったところです。協定の条件により、エラスムス生とは少し違って上智大学の生徒だけ特別に語学センターの授業を毎学期最高3つまで無料で受けることが出来るのですが、私たちが初の協定の生徒であったことやその条件が例外的であることもあり、前期の授業登録は予想以上に難航しました。大学内での情報共有がまだ十分ではなかったようで大学の総合窓口、留学担当窓口、所属している文学部の窓口、そして語学学校の窓口をまさにたらい回しにされ、違う窓口に行く度に特別に授業が取れるという説明をしなければならず、信じてもらうのに苦労しました。更に、なぜか一ヶ月経っても新しい留学担当が来ないし、大学内で他に留学生について知っている人がいないと言われ衝撃を受ける毎日でした。ただそれらの経験を通して、理解して納得するまで引き下がらない、言いたいことは分かってもらえるまで訴え続けるという、こちらで生活する上では必要だと思われる強さがついてきたように感じます。今ではちゃんとヨーロッパ以外の国の留学担当も居るし、語学センターのディレクターもとても優しい方なのでみなさんが留学する頃はきっとスムーズになっていることと思います、安心してください。

  勉強の内容についてですが、現在は文学部の美術史学科の授業と、語学センターでの美術史の授業を取っています。語学センターのこの授業は前期も取っていたのですが、ルーブル美術館で行われる授業で、パリで勉強している環境を最大限に利用出来ていると思うので、とても好きな講義のひとつです。大学での授業は予想以上にレベルが高く、最初の一週間は集中力を使いすぎて毎日ふらふらでした。教授たちは一切板書をせず、一時間または二時間止まること無く早口で話し続けます。教授によると思いますが留学生がいてもほとんどの場合容赦はありません。耳で理解しながらノートを取ることは今の私にはほぼ不可能なので、近くに座っている学生にノートをメールで送って欲しいと頼み、家でひたすら単語を調べ日本語で理解し直すという毎日です。これはとても時間のかかる作業ですが語学の勉強においては最適な環境で、フランスの学生たちと同じ環境で勉強出来ているということはとても嬉しいことです。

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 留学生たちとバーで

 また、勉強以外での生活においても今までしてみたかったこと、見てみたかったものを実践しています。こちらでは26歳以下であれば多くの美術館に無料で入ることが出来るし、コンサート自体も日本とくらべるととても安く学割があることもあります。それらは日本で感じていたよりも遥かに敷居が低く、芸術が全ての人に開かれている街であるといつも感じさせられます。みんなが気軽に行って、専門家でなくても絵や写真について友人と話し合っているという印象を受けます。私自身も趣味で楽器をやっているので、共通の趣味を持った人と話をしたり時には一緒に演奏したり人の輪が広がることもあります。皆さんもなにか好きなことがあれば、留学先でも積極的に実践してより私生活も充実させて欲しいと思います。日本ではあまり触れる機会の無かった分野の美術や音楽に触れ、今までは興味のなかった新しい物に出会い新しい人々と出会い、色々な話を聞き刺激を受け、将来についても今まで持っていなかった選択肢が生まれつつあります。こちらに来て初めて、今まで持っていた夢をこれだけのことだからと捨ててこないで良かったと思うことが出来ました。それに、家族や友人たちから離れ、常に自分と向き合い生活をするという環境はなかなかあるものではありません。自分は何がしたいのか、何が出来るのか、自分に何度も問いかけて色々な可能性を発見することができる環境はとても貴重だと思います。

 一年間という期間は実際経験してみるとあまりにも短いです。でもその中で得られるものの大きさは計り知れず、必ずしも言葉にできるものでもなく、また人それぞれに全く異なると思います。きっかけは何でも良いのです。どんなに小さなきっかけでも、それを何に繋げて行くのか、どんな新しい世界を見つけるのかは自分次第です。今少しでも心魅かれるものがあるのなら、その気持ちは大切にするべきものだと思うし、今具体的にはないとしても、全く違う環境で生活するなかで生まれてくる可能性も大きくあります。その意味でも、日本を離れて留学をするという意味は大きく、もし留学をさせてもらえる環境にあるのであれば是非積極的に目指して欲しいと思います。私も残りの留学生活の中で、もっと色々なものに挑戦し将来についての具体的なことも語れる様になるために、毎日頑張りたいと思います。

 皆さんがそれぞれに充実した留学が送れますように、願っています。

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ルーブル美術館の横にあるチュイルリー公園:夏でも冬でも、沢山の人が椅子に座って思い思いの時間を過ごしています。一番好きな公園です。