パリ・ナンテール大学で学ぶ

鈴木彩花

こんにちは。私は2022年1月から、交換留学制度を利用してパリ・ナンテール大学に留学しています。人文科学系の学部が充実しており、私は社会学部の授業を履修しています。パリといっても、この大学が位置しているのはパリ市内ではありません。Hauts-de-Seine県のNanterreというパリ中心部から電車で30分ほどの街にあります。この大学の特徴やナンテールという街については、先輩が既にブログに書いてくださっていますので、是非そちらをご覧ください。今回は、大学での授業の様子や課題に焦点を当てて、詳しく紹介します。あくまで一つの例ですが、フランスの大学での授業の様子をイメージしていただければと思います。

社会学部の授業が行われる校舎

大学の授業形式

パリ・ナンテール大学の授業には、CM(Cours Magistral)とTD(Travaux Dirigés)という2つの形式があります。どちらか片方のみの科目もありますが、CMとTDがセットになった授業もあります。私が履修している授業はほとんどが後者のため、1つの科目につき週に2回(1コマ2時間)の授業を受けています。

 

ちなみに、今学期の授業は全て対面で行われています。3月に屋内でのマスク着用義務が解除されて以降、ほとんどの学生がマスクをせずに授業を受けており、すっかりコロナ前の日常を取り戻しています。

では、CMとTDにはどのような違いがあるのでしょうか。一言で言えば、理論を学ぶのがCM、その理論を実際に確認する、活用することで理解を深めるのがTDの授業です。

 

CMは、200~300人ほどの大人数で行われる講義形式の授業です。Amphithéâtreと呼ばれる階段状の大教室が使用されます。私が受講した授業ではレジュメが配布されなかったため、学生はスクリーンに投影されるスライドを頼りにひたすらノートを取ります。ちなみに、日本の大学のようにリアクションペーパーを書くことはありません。しかし、期末試験のみで成績が決定される上にTDの基礎となるため、毎回の授業への参加は必須です。

一方、TDの授業は、20~30人ほどの少人数で行われるゼミ形式の授業です。CMで学んだ知識を使って考える課題が毎回出され、授業ではその課題の答え合わせと解説をします。学生が用意した意見を先生が掘り下げたり、それをもとにディスカッションをしたりと、非常にインタラクティブな授業です。

受講した授業の紹介

次に、私が履修している授業を2つ取り上げ、CMとTDの内容を具体的に紹介します。1つ目は、「不平等の社会学(Sociologie des inégalités)」という科目で、出自やジェンダーなど様々な要素から生じている不平等について学びます。例えば、CMではジェンダーステレオタイプが内面化される過程について学び、TDでは、子供向けのおもちゃの広告の分析や、グラフの読み取りをしました。

2つ目は、「社会学思想の歴史(Histoire de la pensée sociologique)」という授業です。CMでは、著名な社会学者を年代順に扱い、社会学という学問が生まれた背景やその変遷を学びます。TDでは、毎週それらの社会学者の著作を読み、問いに答えるという課題が出されます。例えば、ハーワード・ベッカーの『アウトサイダーズ』を読んで、「著者がこの本を書いた目的は何か」、「この本は、なぜ第二次シカゴ学派の代表作とされているか」などの問いに答えました。

 

受講していた学生についてですが、少なくともTDのクラスに私以外の留学生はいませんでした。CMの授業は人数が多いため正確には分かりませんが、やはり留学生はあまりいなかったと思います。しかし、その分授業後に先生に質問して理解できるまで解説してもらうなど、手厚いサポートを受けることができました。クラスメイトも私の拙いフランス語に耳を傾けてくれ、外国人だからといって疎外感を感じることはありませんでした。

 

主体性が求められる授業参加

私は、フランスの大学で授業を受けて、「分からないことを聞くのは恥ずかしいことではない」と思えるようになりました。そう思えるようになったきっかけは、授業中の学生の姿勢にあります。疑問点があれば質問する学生が多い点に、日本の大学との違いを感じました。「分かりましたか?」という先生からの問いかけに対し、なんとなく首を縦に振ることはしません。大人数の授業でも、「今の部分はこういうことですか?」「もう一度、別の言葉で説明してもらえますか?」と遠慮せずに手を挙げて発言します。先生も快く応じてくださるため、発言しやすい雰囲気があります。「理解していないのは自分だけかもしれない」という思いから、質問できずに後悔した経験が何度もある私にとっては、かなり衝撃的でした。

また、私にとって、質問するという行為へのハードルの高さには羞恥だけでなく、申し訳なさや迷惑になるのではという不安もありました。当初、履修登録方法を教えてもらったり、理解が追いつかなかった授業のノートを貸してもらったりと、友人に助けてもらってばかりの状況に負い目を感じていました。しかし、「忙しいのにごめんね」「質問してばかりで申し訳ないんだけど…」と謝る私に対して、毎回「謝る必要はないよ。助けになれることは嬉しいからいつでも言って!」と言ってくれたことで、少しずつ気持ちが楽になりました。もし逆の立場だったら、確かに自分のできることで相手の役に立てるのは嬉しいことだと気づかされました。実際に、自分からアクションを起こしてみれば、助けてくれる人は沢山います。「迷惑かもしれない」「断られるかもしれない」という不安を捨てて、助けを求めてみることの大切さを日々感じています。

 

キャンパス内には芝生が植えられた広いスペースが多く、

晴れた日にはここで昼食をとる学生も多いです

 

芝生の手入れは羊たちが担っています

おわりに

私にとって、フランス語「を」学ぶ授業ではなく、フランス語「で」学ぶ授業は初めての経験でした。そのため、フランス語ができることは前提で進められる授業は全く内容が理解できず、自分の能力不足を痛感しました。それに加えて、先生のコロナウイルス感染や、ストライキによる公共交通機関の麻痺などの理由で休講が続き、遅れを取り戻すために授業のスピードも上がりました。その結果、授業についていくことはより困難になりました。

絶望的な状況からでもなんとか期末試験まで乗り越えられたのは、親切な先生や友人のおかげです。困ったことがあれば遠慮せずに周りに聞いてみる姿勢を学び、助けてくれる人はたくさんいることにも気づくことができました。恩返しのために今回の経験を活かして私ができることは、日本に来た留学生の力になることかもしれないと思っています。私の留学生活を有意義なものにできたのは、沢山の方々のサポートのおかげであることを、忘れずにいたいです。

最後までお読みいただきありがとうございました。これから留学を考えている方の、ご参考になれば幸いです。

 

 

 

旅行先での一枚。ブルゴーニュ地方の街・ジョワニーに広がるぶどう畑。