エクス=マルセイユ大学(フランス)

Report no.3 

フランス留学にまつわる具体的かつ手に汗握る波瀾万丈冒険譚は、本学科の僕の愉快な友人たちが鼻を膨らませて雄弁に語ってくれると信じて、僕はここでちょっとぼんやりとした事を書きたいと思います。

さて、留学について話すということは実はそう簡単なものではありません。僕たちは日本に於ける自分たちのささやかな生活を、大学、バイトそして家族という風に幾つかの世界に分割して考え、生きています。それは割と互いに距離をもって営まれているものです。そして、留学というのはそのバラバラに動いていたはずの世界が渾然一体となって、いっぺんに迫ってくるものです。同時にそつなくこなさねばなりません。そう思うと大変そうだなぁ、と思うでしょう。でも、これは案外面白いものです。世界が狭く単純な分、人間関係の連鎖がより有機的なのです。人と出会い、そのつてでまた人と出会う。これがとても濃い。そうです。留学も半年以上を終え、残るところあと二ヶ月という春の日曜の夜に僕が思う留学とは、つまるところ人との出会いから全てが、本当にあらゆる経験が生まれてくるという、当然だけど忘れがちな真理について、身を以て考える良い機会だということです。

一年間で新たに出会う人の数などたかが知れていると思うかもしれませんが、留学に来ると信じられないくらい多くの人と出会います。そして、僕のようにこぢんまりとした街にいると、自分を取り巻く社会が視覚的にはっきりイメージ出来てしまえるほど、小さく、しかし密集したものになります。人を介してまた人と出会うことは、当然日本にいてもよくあることですが、このように世界が密集している分、それはより早く繋がる。具体的な話をします。狭い街ですから、日本に興味のあるフランス人はよくコンタクトを取ってきます。そして仲良くなり、日本語とフランス語によるささやかなおしゃべりをする会に招待されます。そこに毎週通うようになり、そこで会ったフランス人とまた個人的にカフェで毎週喋るようになる、またそこで出会った永住日本人の方に多いに刺激を受ける、という具合です。

だから、機会があれば飛び込んでいったほうがいい。それは時として疲れるけれど、不思議と後悔するのは往々にして、躊躇して動かなかった時の方がずっと多い、というのが僕の些細な経験則から言えることです。僕はこの留学のおかげで、人と出会うことの楽しさをあらためて知りました。しかしながら、人間関係に関しては決して無理をするべきではありません。フランス人でも日本人でも気の合う人は合うし、残念ながら合わない人は合わない。そんなことは当たり前です。国籍を問わず、自分が心を許せる友達は必ずいるはずです。そういう友人を見つけられた僕はそれだけでも留学に来た意味はあったと思うし、そこに国籍は一切介さないということを若いうちに肌で感じられたことは、本当に幸運だったと思います。

だから、もしあなたが責任と自覚を持ち、資金面でそれが可能という非常に幸運な環境にあるのなら、留学を考えてみてください。語学力以上に、もっと人として根源的に大切なことに気づかせられるかもしれません。