調査・研究

ムハンマド・アブデルアール氏講演会 "Research Workshop on the Rural Egypt and Agricultural Cooperatives"(2018年3月23日(金)上智大学)

2017年度報告

【日時】2018年3月23日(金) 16時30分 ~18時30分
【場所】上智大学四ツ谷キャンパス2号館615a室
【プログラム】
16:30-17:00 土屋一樹氏(アジア経済研究所中東研究グループ長代理)
       「エジプト農業の発展」(日本語)
17:00-18:30 ムハンマド・アブデルアール教授(エジプト・カイロ大学農学部)
       “The Agricultural Co-operative in Egypt: A History of Challenges and a Future of Opportunities”
【概要】
 冒頭、土屋氏より、エジプト農業の概要について説明があった。
 エジプトの農業は近年大きく変化している。雇用に占める農業の比率は未だ大きいが(1990年代35%~2010年代27%)、対GDP比では低下している(80年代20%弱から近年の11%台)。農地拡大は90年代に急増後緩やかに増加(現在は面積約3万8千㎢。二毛作で耕作地6万㎢程。旧・新農地は現在6:4の比率。デルタ旧農地の宅地化が進む問題)。代表的作物(小麦、コメ、トウモロコシ、野菜)の生産は80年代より増加。90年代まで最も政府管理下にあった綿花生産は外部要因(繊維産業における技術革新)で減少。
 貿易は、小麦輸入大国の状況が続く一方、コメ輸出が2000年代に急増、08年食料危機で一時輸出停止、その後解禁(介入は継続、年により出量は大きく増減)。果物・野菜の欧州・湾岸向け輸出は2000年代後半より急増。綿花貿易は80年代より大きく変化、現在は輸入国に。自給率はコメ114%、小麦・トウモロコシは55~60%程度。野菜・果物は自給達成。
 1952年~70年代、土地開拓・補助金・生産・価格・貿易での政府介入の時代が続いた。農業への課税を通じその資源が他部門に転化されていたが、86年以降自由化が始まった(エジプト経済全体の構造調整より一歩早い)。主要アクターは、農業・土地開拓省、農業開発信用銀行(PBDAC)、農業協同組合。農民貸付を行ってきたPBDACは、近年中央銀行の管轄下で「より普通の銀行化」が進む。今後の課題は、持続可能性(水、土地の細分化、宅地化の問題)・生産性(技術と人材育成)・戦略性(長期戦略)の3点と指摘した。

 発表後、小麦の輸入先、農地拡大の場所、農業労働者の詳細等について質問があった。

 次にアブデル・アール氏は、エジプトの農村事情と農業協同組合について講演した。
 前半では、農村地域の状況(上下水道・公共サービスの普及状況、小中学校の数、幼児・児童死亡率の減少等)を概観した。エジプトの貧困は農村部に多いといわれる中、公共インフラは農村部でも改善していることがわかるが、都市・農村間の格差は依然大きい。
 後半冒頭では、まず世界各地にある協同組合の発展の歴史と成功例が紹介された。各地に広がる協同組合は組合員数10億人に達し、1億の雇用、世界の農業生産の半分を生み出している。
  エジプトの協同組合の歴史は、大きくは次のように区分される。
①黎明期(20世紀初頭~大戦間期): 欧州で学んだ資産家オマル・ルトゥフィのイニシアティブや君主フセイン・カーミルの後援により運動開始。初の組合設立は1907年(金融、農業)。最初の法令は、協同組合設立に関する1923年第27号法。
②拡大期(第二次世界大戦中): 第二次世界大戦勃発後、協同組合への消費者の関心が高まり、39年農業省から社会問題省に管轄が移行。44年協同組合法で組合員の出資や組織参加が定められ、協同組合の社会的役割(収益の分配)が強調された。
③1952年革命後の国家統制期: 52年第178号法と56年第317号法で国家統制強まる。各村に農協が設置され、農協は政府機関となった。
④サダト~ムバーラク時代の組織変革期: 政府-農協間の対立の結果、農協保有の農村銀行の資産等が移行されPBDACが設立(76年第117号法)。81年、全農協が農業協同組合中央本部(CAAC)の管理下に統合された。
⑤2014年以降の改革期: 2014年第204号法で農業事業への農協の投資機会が拡大したが、未だイニシアティブを取ろうとする農協は出ていない。現在の2014年憲法は協同組合に関する3条項(第33条、第37条、第42条)で資産保有や運営等を規定。が設立(76年第117号法)。81年、全農協が農業協同組合中央本部(CAAC)の管理下に統合された。

 最後に、現地での農民参加のワークショップで描かれた絵が紹介された。エジプトの農民の目から見た様々な問題点と希望(経営改善、政府の無関心、近代的マーケティングの導入、基礎インフラの整備、役員会メンバーの合計性の改善、女性の参加の増大等)が説明された。
 報告の後、農民全体の数と農協組合員の比率、協同組合の中にムスリムとキリスト教徒が共存しているのか、2014年以降のリベラルな農協組織改革のイニシアティブは誰が持っているのか等、質問が寄せられた。他にも、現在の農協の制度に残るアラブ社会主義時代の影響(国家管理の強さ)に関する指摘、農民の生産活動における自発性や灌漑レベルでの共同性が失われていく中での農協の重要性についての指摘等、多くのコメントが寄せられた。


文責:井堂有子(国際基督教大学アジア文化研究所研究員)

調査・研究

  • 上智大学・早稲田大学共同研究 アジア・アフリカにおける諸宗教の関係の歴史と現状
  • 上智大学 イスラーム地域研究(2015)
  • 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構
  • 国立民族学博物館現代中東地域研究拠点
  • 東京外国語大学拠点
  • 京都大学拠点
  • 秋田大学拠点
  • 早稲田大学 イスラーム地域研究機構
ページのトップへ戻る