博多 かおるHAKATA, Kaoru

  • 職位教授
  • 専門バルザックを中心とした19世紀文学、音楽と表象芸術

授業について

学生だった時も今も「授業」という言葉がなんとなく怖いです。だからこそみんなが一緒に何かを発見できるような楽しい場にしていきたいと思っています。1年生とは新しい言語に出会う喜びをかみしめながら、2年生とは文学研究の根底を考え直し、文章の特徴や仕組みの深さに驚嘆しながら、上級生との授業では、フランス19世紀社会のエネルギー、その時代に書かれたテクストの面白さ、文化(食、音楽、建築等)の多様性に思考をうながされながら。舞台芸術(オペラ・バレエ)についての授業でも、作品から受ける言葉にならない感動は、作品を精密に読み解くことと矛盾せず、それによってかえって深まると感じています。時空を超えた世界に、小説の言葉や芸術の言語を通じて入り込むのは毎回とてもスリリングで、その体験を共有していきたいと願っています。

最近研究していること

研究の主軸はオノレ・ド・バルザックの小説にあります。最近は「ヘテロトピア(異存郷)」とミシェル・フーコーが名づけた空間(簡単に言うと、他の空間と絶対的に異なり、他の空間を否定したり、補ったり、反転したりする空間)について研究しています。劇場、船、墓地、乗り物などだけでなく特に今は、バルザックが着目した「私生活」の場でもありながら屋外にある「庭」という場所に関心を持っており、これまでに行ってきた五感にまつわる研究などとも結びつけながら、小説における庭の役割について考えています。
また、小説と音楽作品、オペラ、バレエの関係には常に関心を持っています。たとえばペローの童話『サンドリオン』(シンデレラ)とロッシーニのオペラ『チェネレントーラ』やマスネのオペラ『サンドリオン』、プロコフィエフのバレエ音楽『シンデレラ』とそれを用いたヌレエフのバレエ作品などを比較することによって、時代の感性、文学と芸術が交流しながら生み出してきたものについて考えています。

私のこの一枚

バルザックが住んだパリの家で唯一残っているこのパッシー地区の家は、現在「バルザックの家(Maison de Balzac)」と呼ばれ、作家が遺した品や原稿、登場人物をめぐる絵画、版画などを展示しています。ここで作家は1840年から1847年まで、『人間喜劇』のテクストに手を入れました。セーヌ川の右岸に位置し、高台にあるパッシー地区は当時、パリの外でしたが、1860年にパリに併合され、ゾラの『愛の一ページ』(1878)の舞台ともなり、瀟洒な建物の間に今も薄暗く細い急坂「パッサージュ・デ・ゾー」を抱えています。対岸のエッフェル塔とともに写真におさめると、この図の中にも時代の変遷とさまざまな物語、文学作品の記憶が詰まっていることに気づきます。