2010年

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El gallinero 第3回公演

Mañana de sol 『お日様の朝』
Serafín y Joaquín Álvarez Quintero (1871-1938, 1873-1944, España)

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うららかな日差しの注ぐ公園。ある朝、ラウラはゴンサロに出会う。二人とも余生を楽しむ年齢である。おしゃべりを楽しむうちに、二人とも相手がかつての恋人であることに気づく。身を明かしたものかどうか…。

アルバレス・キンテーロ兄弟は19世紀末から20世紀前半にかけて人気を博した兄弟作家である。サイネーテと呼ばれる軽喜劇作品を多く書いた。ユーモアとペーソスが盛り込まれた軽快な作風は時代を越えて愛されてきた。

公演日:
ゲネプロ 2010年11月18日
本公演    2010年11月20日(上智大学10号館講堂  外国語学部語劇祭)

演出:木村亮太、浅田麻衣、四戸若菜
出演:森広未 棚村瑞貴 志賀大祐 渡邉綾香 緒方優 神谷英梨菜

[寄稿]
私と語劇とMañana de sol

Doña Laura役 棚村瑞貴

私がEl gallineroに入るきっかけとなったのは、高校生の時のオープンキャンパスでした。その公開授業がEl gallineroの初公演でした。生き生きと堂々とスペイン語を使う先輩たちの姿に感動し、入学後すぐにこの劇団を探したのです。

 Mañana de Solは私が関わった2つ目の作品ですが、役を演じるのは初めてでした。

私が任されたDoña Lauraは、森さん扮するDon GonzaloとのW主演で、全体のセリフの約4割が私に割り振られていました。古典的で文学的な単語や言い回しに、当時1年生の私はちんぷんかんぷんでした。夏休みを使って、日本語訳を作り、時代背景を研究し、登場人物それぞれの細かいキャラクターを作っていきました。作品には直接関係のない性格や生い立ち、家族のことや社会のことだとしても、その役と作品のことをどれだけ理解し、自分のものにできているかが、「なりきる」上で最も大事なことでした。さらに作品を深く、多方面から読み解いていくことで、スペイン語力の向上だけでなく、歴史や文化、彼らの価値観にも触れることが出来ました。語劇の醍醐味はまさにそこにあると思います。作品解釈は、私が4年間語劇に携わる間、一番大切にしてきた作業です。

この作品には舞台上での大きな動きはありませんが、様々な人間味や言葉の面白さが詰まっています。ベンチに座っておしゃべりをしているだけで、どれだけ会話の面白さを観客に伝えられるかが、暗記の次に私の課題でした。私たちの演技力を助けてくれたのが、ガジネロ特有の、ハイカラなこともやってみる精神です。Mañana de Solでは、原作にはない、主人公2人の回想シーンを、同じ舞台上に作りました。これによって舞台の雰囲気が途中大きく変わるとともに、スペイン語が分からない人にも舞台そのものを楽しんでもらえました。また、2人の「心の声」は録音したものを流し、私たちはその音に動きを合わせる演出をとりました。これにより実際の声ではないことをよりわかりやすく伝えることが出来ました。大袈裟なことや演技などやったことのない私でしたが、様々な演出の助けもあり、本番は堂々と演技を終えることが出来ました。何故なら観客席からの笑い声が、私の気分をノリノリにしてくれたからです。この時の楽しい気持ちこそが、私が語劇にどっぷり浸かってしまった理由です。

演劇って少し変わった趣向と思っていましたが、開いてみたら日常でした。でも現実と違う日常をあえて作り出すことが演劇の面白さだと思います。さらにそれが外国語劇なら、その国、その時代に生きていることを、本気で疑似体験できるのです。私はこの作品を通して、スペイン語を学ぶ最も楽しく有効な方法を学びました。そして演じることの楽しさと、自信が持てる新しい自分とも出会えました。同時に、ガジネロ精神である「とにかく実現させようとすること」は、語劇以外でも今でも、大切にしていることです。語劇一色だった私の大学生活ですが、同期のイスパ生一、充実したものだったと思います。

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大道具作り

El gallinero 第2回公演

La isla desierta『無人の島』
作者:Roberto Arlt (1900-1942, Argentina)  

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貿易会社の無機質なオフィスで社員たちが働いている。上司は厳しい。常に監視されている。そんな毎日に社員たちは疲れ切っている。そこへ、ピザを届けにやってきた一人の若者が自分の世界旅の経験談を話し始める。無人島で美女に囲まれ、美味しいものを食べて、どんなに心豊かに暮らしたかを話す。社員たちは抑圧された生活を捨てて自由な世界に飛び立つことを願い始める。

Roberto Arltはヨーロッパからの移民の両親のもとに生まれた。厳格な父親のもとで育てられ、学校教育にもなじめず、ほとんど独学で知識を得た。小説や戯曲を書く一方、ジャーナリストとしても活躍した。劇作に関しては、アルゼンチンの社会派演劇の先駆けをなしたと言われている。La isla desiertaは1937年12月30日にブエノスアイレスのTeatro del Puebloで初演された作品。

公演日:
ゲネプロ 2010年 6月18日
本公演    2010年 6月19日(上智大学10号館講堂)

演出:内藤有美、園田竜也
出演:四戸若菜 木村亮太 小林奈央 浅田麻衣 財津奈々 中村翔子 森広未 
         山田桂美 神谷英梨菜 内藤有美 園田達也 貝明咲子

[寄稿] 
私と語劇とLa isla desierta

Don Manuel役 木村 亮太

私がLa isla desiertaで演じたDon Manuelは、作品全体を通じて台詞の多い役でした。ところが、前半ラストでこぼす悲観的な発言を最後に、ムラートが皆の好奇心をくすぐる作品中盤では終始無言で舞台上に居座り続け、その後突然に、今までの閉鎖的な日々との決別、そして夢に満ちた新たな人生へと前進する決意表明とも取れる一言(¡Basta!) を言い放ちます。

この一連の場面において台詞はないものの、ムラートが繰り広げる話の一つ一つに揺さぶられる形で、Don Manuelの内面では人生観の揺れ動きや悲観/楽観と相反する感情の葛藤が起きていたはずであり、役者としてこういった台本に記載されていない心情の変遷を細部まで想像し、それを表情、態度、仕草など言葉を介さずに表現する必要がありました。

それまで言葉自体の表現に意識を置きながらイスパニア語を学んできた私にとっては、イスパニア語話者の意思伝達に自然と用いられる身振り手振りにあまり着目してこなかったこともあり、こういった心境変化を言葉に頼らず表現するシーンの演技は特に難しかったです。おかげで、その重要性を改めて認識する良い機会になり、結果的にイスパニア語の表現力に幅がつきました。また、本作品の演技を通じて、台詞のない場面を如何に演じ切るかを考えながら役作りをすることの大切さを理解でき、演劇の奥深さに気づく貴重な経験となりました。

一方、作品づくり全体を振り返ると、この時は作品をより楽しく自分たちの色に染め上げていこうという共通意識のもと、演出はじめ全員でとにかく自由にアイデアを出し合いました。練習時間外でも昼夜問わず語劇メンバー同士で多くの時間と経験を共有し、その最中の何気ない瞬間に思い付いたアイデアを積極的に演技、演出に取り入れることで、原作とは違った面白味をもつガジネロ独自の作品に仕上がったと思います。自分たちで新たなセリフや場面を付け加えたり、公演直前に合宿を行ってダンスの練習に励んだりと、各々の感性から自由に湧き出るアイデアを次々と作品中で具現化していく過程はとても楽しかったです。

そして、時には意見が対立しながらもより良い作品を目指して苦楽を共に過ごしてきた当時の語劇メンバーは、公演から5年近く経つ今でも信頼し合える仲間であり、これは語劇を通じて得られた最大の財産だと思います。

ガジネロをはじめとする語劇活動がこれからも学生たちに貴重な経験と成長の機会を提供する場であり続け、さらにその活躍の場を大きく広げていくことを心から期待しています。