様々な出会いが待っていたトゥール留学生活

児島 舞

 私はフランス中部に位置するトゥールという都市に約9か月間交換留学していました。トゥールは、古くからの歴史的に重要な都市で、周囲にはたくさんの古城があり、古城めぐりの拠点になっています。パリほど混みいった感じはほとんどなく、学生にとっては比較的住みやすい都市です。この留学体験記が今後フランス留学を考えている方々に少しでも参考になれば幸いです。

トゥールの旧市街、学生も集うプリュムロー広場

トゥールの旧市街、学生も集うプリュムロー広場

トゥールでの学校生活
 
私が通っていた学校 ESCEM (通称「エセム」Ecole supérieure de commerce et de management 商科・経営大学)は、高等職業教育機関 (「グランゼコール」Grandes écoles)と呼ばれる様々な分野に特化した専門知識を学べる学校の中の、商業の専門学校の一つで、将来を担うビジネスマンの育成を最大の目的としています。3年次の秋学期には、半年間の交換留学またはアルテルナンス(企業で働きながら学校に通える制度)が用意されており、将来海外で働きたい人や大企業に就職したい人、起業したい人が多く集まります。私は特にビジネスで活躍したかったわけではなく、フランス語で専門知識を学んでみたい、特に部活動のマネージャーを通じて経営学に興味を持っていたのでビジネスについて知りたいと思っていました。また、トゥールは標準語を話し、住みやすい街だと聞いていたこともありこの学校を選びました。
 ビジネス系の学校だから職務経験のある人が多いのかと思いきや、バカロレアを経て高校を卒業した学生がほとんどでした。学びたいという意欲はあっても、私 は経営学に関する知識を持っていなかったので1年生のクラスに入りました。そこで、学生のほとんどが自分よりも年下という状況でした。けれどもすでに自分 の将来像を持った意欲的な学生が多く、いつも刺激を受けていました。1年生の授業は学校側がすべて組んだもので、語学以外のすべての授業を同じクラスで受 けます。私の入った学年は36人という少人数で、そのおかげでクラス全員と話す機会があり、毎日活気のある雰囲気の中で過ごすことができました。マーケティングや簿記、商談交渉術、市場調査、統計学、組織論、マクロ経済学、マイクロソフト講座等、 基礎の部分のみではあれ経営やフランス経済に関する様々な授業を受けることができました。小テストやグループワークが非常に多く、休みの日も予習・復習をしなければならず、初めは最後までやり切れるか不安でいっぱいでした。そんな不安が積み重なり、ある日授業中に気持ちが抑えられず涙してし まったことさえあります。けれどもその時、先生は「最初はフランス人でも分からないのだから心配しないで大丈夫。」と言ってくれました。普通に考えれば分 かることかもしれませんが、その言葉に私ははっとさせられ、それからは自分ができることを最大限にこなすことで不安を打ち消すようにしました。意見を出し合いながら答えを導き出していく議論も今まであまり経験がなく、グループワークも慣れるまではとても大変でした。しかし徐々に、大したことでなくても発言することが答えのヒントになることもあると気づき、正解でないと思っても発言することの大切さを感じることができました。フランスの学生のアイディアの豊富さに圧 倒されることもありましたが、最終的にはグループワークも楽しみながら行うことができ、いい経験になりました。 留学生は私の他にフランス語を母語のように話すモロッコとコートジボワールからの学生二人でした。そんな彼らやフランスの学生と一緒に勉強する環境にいたことが 語学力の向上につながり、クラスメイトとの交流を深められたのだと思います。

級友たちと。授業の前後にはいつもここでコーピーを飲みながら休憩していました。

級友たちと。授業の前後にはいつもここでコーピーを飲みながら休憩していました。

パティスリーとの出会い
 
私が大学でフランス語を学びたいと思ったきっかけは洋菓子が大好きだったからです。お菓子のことをフランス語では«les pâtisseries»(パティスリー)と言います。様々なコンクールを勝ち抜いた実力のあるパティシエにはM.O.F (Meilleur Ouvrier de France)という国家最優秀職人賞が贈られ、パティシエは国としても名誉ある職業の一つとされています。留学するまではフランスのことを広く学びたいと思いパティスリーからは少し離れていましたが、留学を機に他の都市を訪れては本場のパティスリー巡りをしていました。
 日本でも洋菓子の約8割はフランス菓子ですが、フランスで実際に買って食べてみると味や形に違いがみられます。その違いを発見することが私の日々の生活の中での楽しみとなっていました。例えばショートケーキ。これは日本ならではのもので、フランスには生クリームで覆われた純白なケーキはありません。フラン スでショートケーキに近いのは、イチゴとクレーム・パティシエ(生クリームとカスタードクリームを混ぜ合わせたもの)を使った«fraisier»(フレジエ)でしょう。いわゆるショートケーキとは見た目も味も全く異なりますが、どちらもイチゴの甘酸っぱさが活かされた私の大好きなケーキです。

フランスのショートケーキ「フレジエ」

フランスのショートケーキ「フレジエ」

 フランスの伝統的なお菓子の中に « religieuse »(ルリジューズ)というお菓子があります。このお菓子は大小のシュー生地を雪だるまのように重ね合わせたものです。ルリジューズという名前は「修道女」という意味で、修道服を連想させて作られたお菓子です。つなぎ目に絞られているクリームが、修道服の襟のひだを表しています。中にはカスタードクリームが 入っており、味は日本のシュークリームにとても似ています。 他にも様々なフランス菓子がありますから、フランスに行く機会があれば色々と味わってみることをお勧めします。

留学で得たもの
 私は大学での留学をはじめはあまり考えていませんでした。しかし、フランス語学科に入ってからは、フランス語を生活の中で実際に使わずに卒業してしまうのはもったいないと思うようになり、3年生の夏に留学することを決めました。実際に出発できたのは4年生の夏で、他の人よりもスタートは遅れましたけれど、トゥールで過ごした留学生活に後悔したことは何一つありません。初めての一人暮らしで家族の存在の大きさに気づいたり、苦労しながらも最終的にはフランスの学生と楽しく学べたり、本場のパティスリーに触れて自分がお菓子が大好きなことを再確認したり、トゥールで出会った人たちがかけがえのない存在となったり…すべてが自分自身の成長につながることでした。これらを含め今までのすべてがあったからこそ今の私があり、将来どのように社会に貢献していきたいかを考えられるのだと強く感じています。ずっと憧れだったパ ティシエになる夢を叶える決心をすることができたのも、留学で得たことの一つです。まだスタートラインにも立ててはいませんが、お菓子が大好きな気持ちを忘れずにこれから頑張っていきます。  
 留学は語学を学ぶだけでなく、日本とは異なる部分を肌で感じることによって新しい発見をしたり、自分と向き合ったりすることのできるチャンスです。みなさんも、少しでもフランスにご興味があれば、ぜひ留学を検討されますよう!