VOL.14
1994年卒業
ストックホルム大学教育学部国際比較教育学
カーシュ(旧姓 田中)幹子さん
Mikiko Miami

北欧より平和で心豊かな世界を願う

21世紀に入って早20年もの時が経過しようとしています。ますます複雑化し、激動する世界の政治経済構造、技術革新に伴う社会文化の変容 、 貧富の差の拡大、依然として続く環境破壊、地球規模の気候変動、大規模な自然災害、 紛争と難民問題など、 グローバル化した世界は混迷しています。一方、 人類の叡智に基づいた、世界平和と繁栄にむけての不断の建設的努力も社会のありとあらゆるレベルで行われているのも忘れてはなりません。 経済至上主義から 人道的精神に基づいた環境に配慮した社会の発展モデルへの変換を促すべく、これまでのさまざまな開発目標のリニューアル版として、SDG(持続可能な開発目標)が近年掲げられ、平和的発展を目指して様々な取り組みが進んでいます。 

 私は、太陽と海に恵まれた宮崎市で育ちました。幼少時から世界の多様な文化や雄大な自然に魅せられ、国際社会に何らかの形で貢献することが夢でした。宮崎大宮高校在籍のとき、都道府県代表交換留学生としてNASAのあるアメリカのヒューストンに1年間留学しました。 多文化が共存する社会での留学経験は、後の私の人生観を大きく変えることになります。多感な学生時代は、冷戦をはさみ国際政治構造が米ソ二極的なものから多極的なものにシフトし、多くのグローバル課題が国際会議で盛んに議論された80年代から90年代初期だったので、この時期に国際平和と貧困撲滅、地球環境問題について深く考察したものです 。国際連合で働きたかったので、国連の第二公用語であるフランス語を習得するために、そして英仏語圏アフリカで国際協力に関わりたくて、国際色豊かな上智大学のフランス語学科を選択しました。 

 上智大学では、フランス語の指導を徹底的に受けながら、歴史、文学、文化、社会、政治、哲学などを学びました。とにかく勉強が忙しく、 最初の数年でフランス語の基礎ができたので、フランス人の友人たちと交流したり、フランスでホームステイの旅をしたりして生きたフランス語と文化を楽しく学びました。フランス語と一般教育以外に国際関係学も副専攻しました。 特に、国際関係学と開発経済、哲学の勉強が、後の仕事における理論的基盤を模索 するのに大変役立ちました。上智大学の自由でグローバルな校風のもと、好きなことを 深めることができた4年間は大変有意義でした。 

 

2007年 ストックホルムの市庁舎での博士号授与式にて。夫と一緒に。

2007年 ストックホルムの市庁舎での博士号授与式にて。夫と一緒に。

 

上智大学卒業後、国際協力事業団(JICA)に就職し、希望していた英仏語圏サブサハラアフリカとの研修事業協力を担当でき、より良い地球の未来に向けての人づくりに微力ながら携われたことは深い喜びでした。その時に、持続可能な社会を造る原点は人であり、 教育であると確信し、それが後のキャリアにつながっていくことになります。スウェーデン人である夫の欧州転勤に伴い、好きだったJICAを退職することは簡単な決断ではありませんでした。それでも、国際協力をライフワークにするという志のもと、パリに移ってからはソルボンヌ大学で1年間経済学を学び、西アフリカを事例に、教育分野に関する国際協力についての論文を書きました。 その後、ストックホルムに移り、母となり、3人の子供たちを育てながらストックホルム大学で博士号をとり、現在、同大学教員の仕事に就いています。教育学部にある「国際比較教育学」の 修士号プログラムの運営、教授、指導を主に行ってきました。 国際比較教育学には、社会教育学的な側面 があり、 常に変化する多様な社会背景を考察しながら、教育を様々な切り口から研究します。数十カ国から集まる、様々な社会文化的背景を持った学生たちは同プログラムの大切な財産です。私の主な研究分野は、大学時代からのライフワークである「持続可能な開発と教育」、「教育と多文化社会」、「教育分野における国際開発協力評価」です。

持続可能な開発と教育の研究発表

持続可能な開発と教育の研究発表

スウェーデンでは豊かな個性の確立、民主主義、異文化理解、自然との共存などの価値観を幼児教育から徹底して教えこみます。高福祉国家の精神は、社会的に成功している者が、社会的弱者を助けることを当然とする隣人愛に基づくものです。スウェーデンは世界一の難民受け入れ国ですが、その背景にはこの精神があるのだと思います。社会的軋轢と巨額の負担を覚悟して、政治的に迫害された多くの他民族を人類愛の観点から社会に迎え入れる寛容さ、果敢さ、柔軟さには脱帽です。

2015年 第1回東京大学とストックホルム大学のシンポジウム

2015年 第1回東京大学とストックホルム大学のシンポジウム

人生は広大な海原を航海するようなものです。周りの天候に合わせて自分で舵を切ることもできるし、助け合うこともできるし、運命に委ねることもできます。私の場合は、運命の巡り合わせでフランス語圏でも英語圏でもない土地に縁がありました。いろいろ考えぬいた結果の決断です。若い皆さんには、 自由に探究できる大学時代に、人生とは何か、真理とは何かを思う存分考察してほしいと思います。人生の真の目的は何であるかを考えてみてください。それは、社会経済的に成功することでしょうか。自己実現することでしょうか。それとも、社会貢献をすることでしょうか。複数の目的が考えられるでしょうが、人生の究極の目的とは、自分らしく幸せであれることだと思います。 人間として、 深遠なる純粋な自己と繋がり、それは、人類の範疇を超えて、生きとし生けるもの、森羅万象との平和的な共生につながっているような気がします。経済至上主義の競争に囚われた 教育のみではなく、人類愛、自然愛を尊重する高次元の普遍の叡智を習得する場所が大学です。人生のステージによって 変化し続ける人生の目的を常に意識して、自己の純粋な気持ちを人生の舵取りをするときの指針としていかれてほしいと思います。 

 人生には、いろいろな波がやってきます。あらゆる困難や試練は、自己を成長させるための好機だと捉えて楽観的に、自己を信じ、希望を持ち、 一日一生の気持ちで、人生を感謝の念で築いていければ素晴らしいことではないでしょうか。 世界平和を願い、ヒューマニズムの精神を基調理念とする上智大学で多くの学生が広く深く学び、善良な地球市民としての資質を高め、人生をより豊かなものにしていくことができることを願います。地球で貴重な生命をうけた一つの生命体として、志を高く、共生と調和と感謝の心で毎日を迎えたいものです。

夏至の真夜中, 庭先より

夏至の真夜中, 庭先より