教育実習で学んだこと

関口 尚志

 来年3月に卒業予定の関口尚志です。2017年6月、群馬県の高校で約2週間の教育実習をしてきました。あっという間に過ぎた時間でしたが、大変充実したものでした。

苦労した2週間 

 僕は高校一年生の英語を担当し、合計26回の授業をさせてもらいました。最初は授業に慣れるのが大変でした。というのも声が小さかったり、解説が不十分であったり、なかなか思い描いていたような授業をすることができなかったのです。こちらは当然理解できるだろうと思ってした授業なのに生徒たちは十分には判っていなかったことや、僕の説明が彼らを混乱させてしまったこともありました。そこで、自分の授業を何度もふり返り、改善を試みました。まず気づいたのは、「知っていること」と「教えること」は似て非なるものであることでした。それを意識してからは、生徒の立場になってどうすれば分かりやすい説明になるのか考えながら授業に臨むようにしました。このように、生徒が容易に理解できる授業をすることを目的にし、真剣に取り組むようになると、教室の雰囲気だけでなく、生徒の個性や性格の違いにも気づくことができるようになりました。今まで授業を「受けた」ことしかなかった自分にとって、授業を「する」立場で二週間過ごせたことは、予想を超える大きな収穫となりました。このような貴重な体験ができたのも、高校の諸先生や生徒達の協力があったからだと、本当に感謝しています。
 結果的には多くの課題が見つかった教育実習でした。しかし多くの先生からアドバイスをいただき、生徒達からも多くのことを学びました。そして「教える」ことはとても難しかったですが、この仕事のやりがいもそれだけ強く感じました。この教育実習での経験を十分生かすことができるよう、自分の将来についてもう一度考えていきたいと思います。

実習をした母校(明照学園 樹徳高等学校)、校門にて。

実習をした母校(明照学園 樹徳高等学校)、校門にて。

多様な外国語教育を 

 そんな2週間、生徒たちと一緒に生活しているときに、彼らからある面白い示唆を受けました。
 ある日の模擬授業の後、1人の生徒がノートを持って僕のところにやってきました。質問だろうと思い、話を聞こうとすると「僕は大学でフランス語を勉強してみたい。そしてフランスにもいきたい。」と突然フランス語で話しかけてきたのです。彼は授業中、フランスや大学生活についての僕の話に興味を持ち、大学でフランス語を学んでみたいと思ったようです。そして自分で一生懸命調べてきたフランス語を、このような形で僕に披露してくれたのでした。あまりにも唐突だったので驚いた反面、非常に嬉しくも思いました。しかもこれを見ていた他の生徒たちまで、その後フランス語で簡単な挨拶をしてくれるようになりました。生徒の大半は英語しか勉強してないと聞いていましたが、フランス語を話す時の彼らは、実に楽しそうな表情をしていました。実際に、英語以外の外国語や異文化への興味があることの一端が垣間見えたような気がします。やはり日本の外国語教育は英語教育と置き換えていいほど英語を重視しており、そのような英語一辺倒では多様な生徒のニーズに応えられていないと思います。今回の教育実習で強く感じたこの事実は、フランスに留学していた時にも同様に感じたことでした。 
 留学中、韓国人の友達と話す時、コミュニケーションは当然フランス語だったのでお互いに言葉が詰まることがよくありました。紙に文を書いてみたり、英語で言い換えたりしていたのですが、ある時、僕が言いたいことが言えずに考えていると、その韓国人の女の子が「日本語で言ってみて。私は少し日本語がわかるの。」と日本語で言ってきたのです。とても驚きました。聞くと韓国では多くの高校生が英語に加えて第二外国語を履修し、高校ではドイツ語、フランス語、スペイン語、中国語など多くの外国語科目が開講されているのだそうです。ちなみに彼女の高校で一番人気の外国語は日本語だとのことでした。また一つの外国語しか教えていない高校はほとんどないらしく、英語が外国語として独占的な地位を占めている日本の教育状況とは韓国は全く異なっていました。彼女の話を聞いて日本と地理的にも文化的にも近い国の言語教育でさえ、日本のそれとはかなり違っていることに気づかされたのです。 
 そして留学先だったフランスも加盟しているEUでは「多様性の中の統合」(United in Diversity)をモットーとし、言語の多様性を尊重しています。このようなEUの多言語主義では移動の自由や加盟国間の相互理解を促進するため、母語に加えて二つの言語が話せるようになることを目指す「言語学習の促進」(promoting language learning)もまた目標として掲げられています。留学中に出会った人々の中でも、若い世代を中心にフランス人はスペイン語やドイツ語など複数の外国語を学んでいましたし、大学でも英語以外の言語を理解できる人は珍しくありませんでした。 世界の多くの国では英語教育が重要視されていることは事実ですが、英語以外の外国語教育もまた同様に重視されており、ここが日本とは決定的に違う部分だと思います。
 教育実習のわずか二週間の間でしたが、生徒たちはフランス語で(もちろん英語でも)僕を大いに楽しませてくれました。そしてきっと日本の多くの高校生は英語以外の言語でもコミュニケーションを楽しむことができるはずです。このような彼らの素晴らしい感性を育てるためにも、より多様で豊かな外国語教育が実現することを願うばかりです。