アイルランドびいき

学生が留学相談にくることが度々あります。特にイギリスやアイルランドに留学する学生と話をすると、自分の分野(イギリス・アイルランド文学)が近いという理由で、かなり盛り上がります。

昨日訪ねてくれた学生は、今年夏からアイルランドの名門トリニティ・カレッジ(ダブリン大学)に留学するのですが、彼女は「ケルト文化」とアイルランド人のアイデンティティーとの関係に関心があります。そういう話から、イングランドによる植民地支配とアイルランド人の生き抜く力や逞しさには歴史的に深い結びつきがあるんだね、といった会話に発展しました。あまり知られていないですが、『ガリバー旅行記』の作者ジョナサン・スウィフトもアイルランド人です。

それで思い出した映画が二つ。一つめは、ニール・ジョーダン監督の『プルートで朝食を』Breakfast on Plutoです。主人公のパトリック(呼称キトゥン)はtransvestite(服装倒錯者)で、男性なのに女性の服を着て、女性のような優しい声で話します。彼(彼女?)は、両親に捨てられ、養母に虐げられ、学校でもtransvestiteアイデンティティーを否定されますが、直向きで、逞しく、そうした境遇に決して負けません。舞台はアイルランドからイギリス(ロンドン)へ。IRAのテロ事件に巻き込まれ、容疑者として扱われても、人間的魅力にあふれるキトゥンには必ず誰かが手を差し伸べます。

二つ目は、ロバート・カーライルが好演している『アンジェラの灰』Angela’s Ashes。これもアイルランド人の力強い生き方が描かれています。原作はピューリッツァー賞を受賞したフランク・マコートの回想録。アメリカ合衆国に生まれた主人公フランクが幼いころ(両親の経済的な理由で)母国アイルランドに渡るのですが、父親は失業し、家族は極貧生活を強いられます。悲惨な生活は重い雰囲気を醸していますが、それとは対照的に、フランクの明るさやユーモアが軽いタッチで描かれています。

こうしてアイルランド映画の話をしていると、このアイルランド贔屓の学生が、『マグダレンの祈り』(The Magdalene Sistersという映画を紹介してくれました。ピーター・マラン監督のこのアイルランド・イギリス合作映画は、1996年まで実在したマグダレン修道院を舞台としています。アイルランドで支配的だった厳格なカトリックの戒律に基づき、婚外交渉をした「不道徳」な女性などを収容していたところです。

学生との映画・文学談義は、互いの研究興味を刺激し、楽しいです。アイルランドの歴史も文学も、ケルト文化も、宗教観も、大変興味深いので、これからも多くの学生がアイルランドに興味をもってくれるとうれしいな、と思いました。(小川)